シスター・先生から(宗教朝礼)

2024.05.08

2024年5月8日放送の宗教朝礼から

  5月になりました。サツキやツツジが鮮やかな季節です。今月はマリア様の月で、明日は冠をお捧げするマリア様の祈りも行われます。

 今日は、若さ・常識をはみ出す・努力をキーワードにお話をしたいと思います。

 ファッションデザイナーのコシノジュンコさんを知っていますか?大阪・岸和田で3姉妹の次女として生まれた彼女は、1960年に新人デザイナーの登竜門とされる装苑賞を最年少で受賞、以後東京を拠点にファッションデザイナーとしての活動をスタートさせ、世界各地でショーを開催して高い評価を得ています。姉のコシノヒロコ・妹のコシノミチコともデザイナーとして世界的に活躍しており、それぞれが大変個性的でもあります。コシノジュンコさんのデザインの魅力は前衛的で革新的であること。和の要素を取り入れたデザインが多く見られますが、近未来的なデザインをうまく融合させているのが特徴だそうです。現在84歳。その制作意欲は衰えることなく、近年では服飾デザインの領域を超えた新たな境地を切り開いています。先月は、客員教授を務めてきた東京藝術大学で最後の講義としてコラボレーションショーを行ったことが報道されていました。このショーでは藝大の学生らが演奏をしたり、モデルとして登場したりしたそうです。

 コラボレーションショーについてのテレビインタビューの中で、心に残る言葉がいくつかありました。

ひとつは、80歳を超えても創作意欲がわいてくる秘訣を聞かれての言葉です。「今日が一番若い日」。最初、(えっ?今日は一番年を取った日ではないの?)と思いました。生まれてから今日が一番日が経っていますよね。けれど彼女は続けます。「未来から見たら、今日が一番若い日」。だから、次への一歩が踏み出せると言うのです。彼女の視座が常に未来にあることを示した言葉でした。若いみなさんに合うような表現にするならば、「未来から見て、今日が一番、成熟する前の可能性にあふれた日」となるでしょうか。

 常に革新的なデザインを送り出してきた彼女の言葉は続きます。「“常識”からはみ出ることを恐れない。はみ出てもよい。もしかしたら、明日それが新しい“常識”になるかも知れないのだから。」「100年前の常識と今の常識は異なるでしょ。常識とはあってないようなものなんですよ。」

 彼女の創り出すファッション、そしてコシノジュンコさんご自身も大変個性的です。個性的であることは、別の方向から見たら“常識”からはみ出ているともとらえられるでしょう。もしかしたら、批判や無理解の嵐を受けたこともあったのかもしれません。それでも歩み続ける努力なしには、今の彼女はいないのでしょう。

 私自身をふり返ってみると、“常識”をはみ出ることは避けてきたように思うし、最近では身体の衰えばかり嘆いていました。老眼が進んで、見えづらい。指の関節が痛い等々、いくらでも挙げることができます。そんな私がこのところ痛切に後悔していることがありました。若いころは、ピアノを弾くのか好きでした。教員になってからもレッスンを続け、仲間と年に1回演奏会をしたり、とても大切なものでした。いくつかの理由でピアノから離れ、現在に至るのですが、先日中学卒業式の入退場のオルガンを担当することになりました。この前弾いたのはいつだったか覚えていない程だったので、練習が必要ですが、手指の関節が痛くなるので、時間をかけることもできません。楽譜を見ても以前のように読めない!指が反応しない!……という状態でした。中1や中2の伴奏をしてくださったお二人を仲間として、無事にお役目を果たせたかなと思いますが、ピアノに向かう時間を持てたことは幸いなことでした。ピアノにまつわる想いもよみがえってきたのです。

かつて私にはマスターしたい曲がありました。ラフマニノフの前奏曲Op.23-2 変ロ長調と、スクリャービンのエチュードOp.8-12嬰ニ短調です。(関心のある人は見てみてください)どちらもオクターブが連続する曲で、手の小さな私には難しい曲でした。これを「いつか弾きこなしたい」と思いつつも、そのままにしてしまっていました。長時間の練習ができなくなった今ではマスターすることはできないでしょう。「弾いてみたい」と思った時に努力すべきだったと強く思います。「未来から見て今日が一番若い日」なのだから、その時に後回しにせず真剣に取り組んでいたら、違っていたかもしれないのです。

今日の音楽はピアニスト舘野泉の演奏です。舘野さんは2002年65歳の時、舞台で脳出血を起こし、右半身不随になりましたが、その後2年かけて左手だけの奏法を習得し、「左手のピアニスト」として復活した方です。このCDは2011年の録音、75歳のときのもの。コシノジュンコさん、舘野泉さんには遠く及びませんが、私にとっても「今日が一番若い日」。心に留めたいと思います。

みなさんも、挑戦したいこと・関心があることに対して後回しにせず、やってみましょう。それは簡単なことではないかも知れません。困難があるかもしれないし、努力も必要となるでしょう。でも、「今日が一番あなたの若い日」なのですから、取り組むのは「今でしょう!」。今年もみなさんの挑戦を応援したいと思います。自分のことだけではなく、視野を広く持ってほしいなとも願っています。

M.H.(国語科)