シスター・先生から(宗教朝礼)

2022.06.29

2022年6月29日放送の宗教朝礼から

  先日、ネットニュースで『外来種のウシガエル「捕まえて食べてやる」 意気込んだ中学生、まさかの希少種を捕獲』という見出しが目に留まりました。記事によると、兵庫県の県立公園に職業体験に来ていた中学生が、園内のビオトープで外来種のウシガエルが他の生物を食い荒らしてると聞き、また、ウシガエルが食用と知って「捕まえて食べてやる」と意気込んで捕獲に挑戦したそうです。しかし、カエルを捕獲して職員の方に持っていったところ、それがなんと絶滅危惧種のモリアオガエルだったというニュースです。不二聖心では、毎年築山の池で産卵が確認されているモリアオガエルですが、地域によっては見つかっただけでニュースになるほど希少な生物です。ちなみに、その中学生はその後、無事ウシガエルを捕獲し、食べたとのことです。

 ところで、皆さんは、目の前にカエルがいたとして、このカエルは何ガエルなのか、どうやって確かめますか。ウシガエルの代わりに、間違って希少なモリアオガエルを食べてしまわないために、名前を調べようとしたらどうするでしょう。別にカエルじゃなくてもよいのですが、例えば、教室に入ってきた虫や、道端に咲いている花の名前が気になったことはないでしょうか。私は校内で花を見つけたり、虫を見つけると、名前が知りたくなります。理科では、生物の名前を調べて明らかにすることを「同定」するといいます。私は日々の学校生活の中で見つけた生物を同定し、その一部を、フィールド日記という形で皆さんと分かち合っています。さて、先ほどの質問に戻りますが、皆さんなら生物の名前をどうやって調べるでしょうか。まずはインターネットで検索するという方もいるでしょう。インターネット上には多くの情報がありますから、大いに参考になるでしょう。しかし、インターネット上の情報は正確でないことも多々あります。私の場合は、趣味レベルの同定とはいえ、学校のHPで公開することもあるものですから、インターネット上の情報を決定打にすることはできません。では図鑑で調べるのはどうでしょう。皆さんは図鑑で生物を調べるというと、どんなことをイメージしますか。図鑑に載っている写真と、見つけた生物を照らし合わせて、これだと決めるイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、これはいわゆる「絵合わせ」という方法であまりよくありません。生物にはとても似ているもの同士もいますから、写真だけではわからないのです。そうすると、図鑑にある記載を読んで確認したり、検索表と呼ばれる、見分けるのに適した特徴が2者択一になっていて、チャート形式で種名を絞り込んでいけるページを使ったりします。こういうと、図鑑の記載や検索表を使えばみんな正確に名前がわかるんでしょと思うかもしれませんが、そうとも限らないのです。記載にある特徴が見られる時期ではないかもしれませんし、その特徴の写真をとっているとは限りません。また、記載や検索表の表現が慣れない人にはよくわからなかったり、そもそも研究者の中でも議論や混乱のある分類群だともうお手上げです。このあたりの感覚がどうもうまく伝えられなくて、もどかしい思いをしていたところ、昨年次のタイトルの本が出版されました。『図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?生きものの同定でつまずく理由を考えてみる』という本です。まさに私が感じていたことがそのままタイトルになっています。読んでみると、「そうそう、まさにそうなんだよね」と思うところが多々あります。本の内容を紹介すると長くなってしまうので、割愛しますが、興味がある人はぜひ読んでみてください。というわけで、最終的にフィールド日記では写真1枚に2~3行の短い文章になっていることが多いですが、その背後には数時間かけて複数の図鑑の記載を見比べたり、場合によっては、確信が持てないので次の年にまた花が咲いて特徴が観察できるのを待ち、1年越しでやっと同定できたものもあります。しかし、こうして1つ1つ生物の名前がわかっていくと、今まで風景の一部として見過ごされていたものたちが、親しい友人のように、浮き上がって見えてくるような感覚になり、世界の見え方が豊かにかわってくるのです。だからこそ私は、知らない生物に出会うと、名前を知りたいと思うのかもしれません。
 さて、教皇フランシスコが『回勅 ラウダート・シ ともに暮らす家を大切に』の中で「絶滅危惧種の保護を格別に配慮する保全プログラムや保護戦略を目指して、入念な地域の固有種一覧の作成に着手する必要があるでしょう。」と述べられています。つまり、地域の動植物を調査して、同定し、リストを作るということです。皆さんの中には、そうしたことはプロの研究者がやることだろうと思う方もいるかもしれません。しかし、実際には、地域の動植物の調査には多くの一般市民の方がかかわっています。皆さんもその一人になることができます。不二聖心には全国でも貴重な動植物が多く生息しています。しかし、不二聖心で見られる全ての動植物を記載したリストはありません。まだ気が付いていない生物も多くいるでしょう。このままだと気が付かないまま、そうした貴重な生物が失われて行ってしまうということがあるかもしれません。今年度の学校目標は『知性を磨く~希望の扉をあけて~』です。皆さんの中で、何か新しい希望の扉を開けてみたいと思う方がいたら、ぜひ生物の同定に挑戦してみてはいかがでしょうか。間違いなく新しい世界の扉が開けるはずです。
これで宗教朝礼を終わります。

M.H.(理科)