校長室から

2014.04.05

前期始業式・校長講話

カトリックの価値観に根ざした全人教育

 不二聖心女子学院では、カトリックの精神に基づき、皆さんが「魂」「知性」「実行力」という領域においてバランスよく成長し、「社会に貢献する賢明な女性」として成長していくよう準備します。これら3つの領域が統合されていくためには、皆さん自身が各領域を自分自身と関連づけて意識していることが必要です。そこで、不二聖心では、毎年、一つ一つの領域に焦点をあて、学校の年度目標に取り入れています。先生方とご相談し、今年は「実行力を養う」を取り上げ、より具体的な目標としては「フロンティア・スピリット」(開拓者精神)を掲げることにしました。今日は、不二聖心女子学院創立に至る二つの流れから、二人の方の生き方をもとに、今年の目標について考えてみましょう。

1)  聖フィリピン・ドゥシェーン 「いかに幸いなことか、良き訪れを伝える者の足は」(イザヤ書52:7)

 カトリックの学校は、それぞれにゆかりのある保護の聖人を戴いていますが、フロンテイア・スピリットは、本学院の保護の聖人である聖ローズ・フィリピン・ドゥシェーンの代名詞でもあります。フィリピンは、創立者マグダレナ・ソフィア・バラに願い出て、アメリカ大陸へ派遣され、聖心女子学院を開校しました。これは、ヨーロッパ以外の地への初めての設立であり、学院が世界5大陸へと広がりゆくきっかけとなりました。不二聖心女子学院もこの大きな流れの中で誕生したのです。
1818年3月21日、フィリピンは4人の同志と共にレベッカ号に乗ってフランスのボルドー港を出航、5月29日にニューオーリンズに錨をおろしました。19世紀初頭、異なる言語・文化の中でのミッションは現在とは比べものにならない程の困難を伴いましたが、フィリピンは、「大きな目的のためには惜しみなく自分を捧げる」という“ドゥシェーン気質”をもって幾多の苦難を乗り越え、9月にはセントルイスに初めての学院を建てました。これが、現在不二聖心がアメリカ体験学習で訪れているAcademy of the Sacred Heartです。以後、1852年11月18日に帰天するまで、34年の長きにわたりアメリカ大陸でのミッションに献身しました。
1988年にバチカンの聖ペトロ大聖堂で行われたフィリピンの列聖式の中で、教皇ヨハネ・パウロ2世は、「果敢な宣教魂をもったこの偉大な開拓者は、神の愛に燃えた心の目で未来を見たのです。革命後のフランスのニーズを超えて、新しい世界、北米のニーズを見たのです。『全世界に行って、すべての人に福音を宣べ伝えよ』とのイエスのみことばを実践したフィリピンは、神の招きは全ての人に向けられたものであり、国家、政治、文化、民族を超えたものであることを思いおこさせてくれます」と讃えました。
2) 岩下壮一「闇をてらす足おと」 ― 不二農園100周年を迎えてー

 大正初期、関西の実業家であった岩下清周氏がこの地に移り住み、それまでの農園を「不二農園」と改名してから今年で100年目にあたります。近代農業に取り組んだ不二農園の先駆性、私財を投じて地域の子供たちのために農園内に創立した私立温情舎小学校(不二聖心の前身)のヒューマニズムに富んだ進取の気風の中にも、フロンティア・スピリットが満ちていました。
清周氏の志は、長男でカトリックの司祭でもあった岩下壮一神父様に受け継がれていきました。神父様は、6年間に及ぶヨーロッパ留学から帰国後、哲学の研究者としての道を敢えて辞し、温情舎小学校初代校長として教育に献身すると共に、日本人として初めて神山復生病院第6代院長となり、当時日本で猛威を奮ったハンセン病の患者の方々のために生涯を捧げました。
復生病院は、フランス人のミッショナリーが開いたハンセン病療養施設が始まりで、5代までの院長は全て外国人の神父様方でした。壮一神父様は、同じ日本人として、心身の苦しみに喘ぐ同胞に寄り添い、尽力することに強い責任感と使命を感じていらしたといいます。父清周氏の遺産を注ぎ込み、寄付を募り、患者たちの立場に立って病院の施設や生活を改善していきました。「天刑病」として差別され、家族から隔離され、本名を捨てて生きねばならなかった病者の方々は、壮一神父様と出会うことで人間性を回復していきました。まさに「復生」をもたらしたともいえる姿は、作家重兼房子によって『闇をてらす足おと―岩下壮一と復生病院物語』(春秋社1986年)の中で描かれています。
3)  フロンティア・スピリットに満たされて

 中学校の入学式ではオープンハートで「二人といない自分」(不二)に与えられた可能性を開花させましょうと、高校の入学式では”Vocation”をもとに、一人ひとりがその人にしか果たせない使命が名指しで与えられているということをお話しました。人と比べたり、既成の枠組や先入観に捕らわれずに、自分の深みで響く呼びかけに耳を澄まし、周囲のため、また自分自身のために本当に大切だと思う事柄に出会ったら、勇気と創造力、そして忍耐をもって向き合い、取り組んでみましょう。それは、身近なことから始まると思います。
また、今年は特に、学習においても、活動や態度、内面性においても、自分の中の未開拓の領域、これまであまり向き合ってこなかった未知なる分野、または新しいフィールドを意識し、チャレンジしてみましょう。向き合わずにあきらめてしまっていることがあったら、そのままで良いのかどうか確かめてみることも必要です。10代であきらめるには早すぎることもあるのではないでしょうか。
日々の生活の中で意識してできることは、目立たない、ごく小さなことかもしれません。けれど、すべては日常から始まるのです。ローズ・フィリピンや、岩下壮一神父様もそうでした。学生時代の学びや普段の小さな選択、姿勢や態度が、将来の大きな決断を支えたのです。
グローバル化がもたらす光と影が複雑に錯綜する現代にあって、世界をよりよく変容していく新しい生き方を提示し、信念をもってそれを生き抜く人――、世界は、そのような人を必要としています。前人未踏の世界に踏み込む勇気が必要かもしれません。
 皆さんの不二聖心女子学院での現在の学びが、世界の未来を作っていくと私は信じています。先生方も負けてはいません。皆で、不二聖心をフロンティア・スピリットで充満させましょう!