シスター・先生から(宗教朝礼)

2016.02.03

2016年2月3日放送の宗教朝礼から

  おはようございます。宗教朝礼を始めます。

 先月、長野県軽井沢で大型バスの転落事故がありました。多くの方が亡くなり、負傷者も沢山でました。
 大変悲惨な事故で、前途ある大学生が命を絶たれたことに深い悲しみを覚えました。この事故から色々なことを考えました。
 これは単なる偶発的な交通事故ではなく、起こるべくして起きた事故だと報道されています。その原因の一つは現代の日本の社会的な仕組みにも関係しています。最近、旅行や食べ物、電化製品、家具など何でも格安な商品がもてはやされています。韓国二泊三日で往復飛行機代、ホテル代込みで19800円というチラシや、かつては20万円以上した大型デジタルテレビが4万9000円など、どのように利益を出しているのかと不思議に思ってしまいます。東京から長野に新幹線で約1万円近くかかるところ、今回のスキーバスツアーは、交通費、宿泊費、スキーのリフト代込で1万円程度だったそうです。消費者という立場からすると、大変ありがたい話ですが、別の視点から見るとどうでしょうか。格安の裏には、とても安い賃金で働いている労働者やコスト重視で安全性が軽視されるという事が隠れています。
 事故を起こしたバス会社は、お客を集めるために料金を格安にして、人件費を削減し大型バスの運転経験の少ない運転手を長時間働かせていました。高速料金を節約するために高速走行区間を短くし、余計に走った料金は運転手が負担する仕組みになっていたそうです。そのため、疲れた状態でカーブの激しい山道を無理して走行して事故が起こった訳です。
 これ以外にも、カレー屋のココ壱番屋の廃棄するはずのビーフカツをスーパーに横流しして、販売して利益を得ているという会社もありました。食品の消費期限のシールを貼り直して再度販売するという事件も起きています。
 ある飲食店では人件費を節約するために、深夜は一人で接客、調理、清掃すべてを任され十数時間トイレにも行けないといった環境で働かされ過労死するというニュースもよくあります。
 大企業では従業員のリストラを発表すると株価が上がり、会社の評価があがるという現象が起きています。しかし、解雇される従業員や家族はたまったものではありません。このようなニュースは、共通する日本固有の特質でつながっているような気がします。現代の日本では、経済的利益が最優先されそのために人権が無視され、安全性や人命が軽視される事態が増えています。社会全体が利益という数値だけにとらわれ激しい競争を続ける限り、またこのような事件はあとを絶たないと思います。
 このような状況を変えるためにどうすれば良いでしょうか。
 キリスト教の教えにある自分のために、もしくは自分の会社のためにだけではなく、他者を思いやりいたわるという気持ちがもっと広がれば、日本全体はもっと良い環境になっていくのではないかと考えます。
 例えば、皆さんが奉仕やボランティア、募金を行うときにいくら利益になるからと考えて行っている人はいないと思います。それよりはお年寄りや困った人に喜んでもらいたいという純粋な気持ちで行っているのではないでしょうか。
 先日、高校3年の講演会にいらした聖心会のシスター畠中は、15年前に不二聖心を辞められたあと、アメリカで勉強し、その後、山谷で日雇い労働者のお世話をしていました。東日本大震災が起きたあと、いても立ってもいられず福島第一原発の近くの原町ベースというところに移って今なお被災者のために働いています。今も放射能のリスクのある地域で危険を顧みず、利益など考えずに他人のために尽くすという行動は誰にでもできることではありません。
 利益にならなくても他者のためにつくすというシスターの活動は、利益追求の日本企業の考えとは対極にあります。もちろん従業員や経営者の給料を払うために民間企業は稼がなくては生き残れません。しかし、それだけが究極の目的になってしまったら人の存在意義が失われてしまいます。
従業員は人件費のかからないロボットが最適になります。でも皆さんが旅館に泊まったとき、フロントの受付も客室の案内もウエイターもすべてロボットだったらくつろげるでしょうか。人に親切にされ、もてなされ会話をして、くつろぎを感じるのではないでしょうか。
 
不二聖心でキリスト教の精神を受け継いだ皆さんは、他人を思いやる気持ち、尽くす心が育っていると思います。先日、高校3年生が職場体験で色々な場所で働く経験をして来ました。職場の方のアンケートの中に、「高3の生徒さんが来たおかげで職場全体が明るく元気になりました。」とか「新しい視点で仕事を見直すことが出来ました。」、「人への接し方で学ぶことがありました。」等、沢山のお褒めの言葉を頂きました。
皆さんは、それだけ周囲に影響を与えることが出来ます。将来社会に出たとき、その気持ちを引き継ぎ、少しでも日本人が人に優しくなれる社会になるように努めてくれることを期待しています。
 
そして、バス事故で亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。
 これで宗教朝礼を終わります。
                                         J.K.(数学科・情報科)