シスター・先生から(宗教朝礼)

2019.01.23

2019年1月23日放送の宗教朝礼

2019 宗教朝礼

 1月も下旬となり、寒い日が続いています。寒い日に欠かせないのが、温かい飲み物。コーヒーや紅茶、ココア、柚子茶、生姜湯、葛湯、熱い番茶。皆さんにもお好みの飲み物があることと思います。今日ご紹介したいのが、ホット・アップル・サイダー。サイダーというと、日本では炭酸飲料のことを指しますが、ここでは、りんごを丸ごとつぶして絞り、ろ過や過熱処理をしない生のままの果汁をさします。この果汁が自然発酵して二酸化炭素を発生、ちょうど炭酸飲料のようになったものが日本に伝わり、日本では爽やかな酸味と甘みのある炭酸飲料をサイダー、と呼ぶようになったもののようです。
さて、ホット・アップル・サイダーとは、一言でいえばりんごの果汁を温めた飲み物。通常そこにシナモン、クローブ、生姜などのスパイスを加え、更に凝った作り方によると、オレンジの薄切り、クランベリー、ナツメグや粒の胡椒を加えて温めます。
ホット・アップル・サイダーは、りんごの甘酸っぱさとスパイスの香り、それに生姜の効果で、大変に体が温まる、アメリカでは秋から冬にかけて広く飲まれる飲み物ですが、りんごと香辛料という組み合わせに世界史の縮図をみるようです。
りんごの原産地は中央アジア、天山山脈の西部、ウズベキスタン・カザフスタン・キルギスあたりと考えられています。それがはるばるシルクロードにのって古代のローマに伝えられ、そこから時を経てヨーロッパ各地に広まり、食文化の中に根づいていきます。くだものといえばりんご、という意識があったためでしょうか、アダムとイブが食べた善悪の知識の木の実は本来何の実かわからないのですが、りんごとして広くイメージされているのは私達も知りとおりです。アメリカへは、ヨーロッパの入植者が早くから苗を持ちこみ、ニューヨークをビッグ・アップルというくらいにアメリカを代表するくだものとなっています。
一方、香辛料の広まりは、大航海時代の幕開けとともに本格化しました。新大陸からの新しい食材の到来とともに、ヨーロッパで食文化が大いに発達、食事を楽しもうという機運の高まりの中で珍重されたのが香辛料でした。カルダモン、クローブ、ナツメグ、シナモン、胡椒など、限られた地域でしか生産されない香辛料は、非常な高値で取引され、ポルトガル・スペイン・オランダ・イギリスは、香辛料の原産地の支配をめぐって、し烈なスパイス戦争を繰り広げていきました。現在のインドネシアにあるモルッカ諸島をめぐるイギリスとオランダの争い、アンボイナ事件はその代表的なものでしょう。このスパイス戦争にちゃっかり勝利したのは、フランスでした。正面から戦闘を挑むことなく、厳重な管理の目をかいくぐって、貴重な香辛料の苗木を盗み出し、アフリカの植民地での栽培に成功したのです。他の国々も香辛料の栽培の拡大に乗り出し、おかげで現在私たちは香辛料を手軽に楽しむことができるようになった、というわけです。
ホット・アップル・サイダーは、りんごに含まれるリンゴ酸などの効果のほか、シナモンの抗酸化作用や冷え性改善、クローブの抗菌・沈痛作用、生姜の血行促進作用などが期待できます。古くは、それぞれ限られた産地でしか手に入らなかった食材で出来上がっているホット・アップル・サイダー。それらが伝来した歴史に思いを巡らすながら、体を温め、冬を乗り切ってみてはどうでしょう。 
                                           T.K.(社会科)