シスター・先生から(宗教朝礼)

2020.12.11

2020年12月9日放送の宗教朝礼から

 コロナ禍に見舞われた2020年も1ヶ月足らずとなりました。私たちの日々の生活も、学校生活・寄宿舎生活も変わらざるを得ませんでした。この変化はこれまでの普通であったことからの脱却、新たな日常を要求するものでした。毎日マスクをする生活、ご飯を食べるときもお話をしないで、一方向を向く。みんなでお菓子を食べながらお話をするなどということも制限されています。味気ないし、つまらないですね。大人の私でさえそう感じるのだから、みなさんには本当につまらなく感じることでしょう。
 教員としての私のあり方もこの一年はチャレンジングなものでした。オンラインの授業の準備は大変です。授業中のみなさんの発言を元に授業を展開するスタイルを私はとっていますが、オンラインだとあらかじめ授業の展開を組み立てなければなりません。計画的に授業は進むけれど、みんなはどんなふうに思っているのかな、考えているのかなと思っても、PCの黒い画面に浮かんだ名前のアイコンだけでは何も読み取れません。また、対面とオンラインのハイブリッドになると、プリントやテストを印刷した後で、オンラインの人へ同じ内容のPDFを送る。ネットに繋がらない、プロジェクターが不調だ、あっ私の全画面が教室に丸写し……いろいろトラブルは絶えません。それぞれ離れたところで暮らしている息子たちと連絡がとれないと、具合が悪くなって倒れているんじゃないかとか、大学のオンライン授業に本当に参加しているか、ゲームのやり過ぎで寝坊しているんじゃないか、親としても心配は絶えません。
 みなさんのお家の方も同じような気持ちをお持ちだと思います。また、お仕事や地域のことなど、みなさんとは異なるご心配もあるはずです。
 それでも、私たちはこの1年を乗り越えてきました。「困難を乗り越える力」を私たちは持ったと言えると思うのです。
 10年以上前ですが、ノーベル文学賞を受賞した作家大江健三郎が自身の生涯を振り返り、初孫の誕生による感慨を次のようにうたっています。
  ”この子の生きてゆく 歳月は、
   その苛酷さにおいて
   私の七十年を越えるだろう (「形見の歌」2007年)
当時、経済不安等があり、この詩を読んで私は「漠然とした不安は拭えないなぁ」と思っていたのですが、2008年のリーマンショック、9.11(2001年のアメリカ同時多発テロ)、3.11(2011年東日本大震災)など大きな困難を私たちは経験してきました。実際のところ、みなさんには9.11は歴史のことでしょうし、3.11についてはそれほど記憶がない中学生もいるでしょう。ただ、これらの出来事は当時の私自身に大きな衝撃を与えました。特に東日本大震災の喪失感・無力感は大きいものでした。
 その時、心に浮かんだことばがあります。「希望をもつ」ことです。魯迅の「故郷」の最後に次のような一節があります。
  ”希望とは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。
   歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。”
 中国の近代化・中国人のアイデンティティの覚醒を望んだ魯迅の言葉ですが、普遍性ももっているといえるでしょう。

 クリスマスを前に学校に各学年のキャロルが聞こえないことはとても寂しいですが、キャロル委員がオンラインにむけて今準備作業をしてくれています。明日は奉仕の時間もあります。クリスマスの意味をもう一度考えて、これからを過ごしていきましょう。
 最後にファン・ツィの「バラへの3つの願い」という曲を聴いていただきます。ユネスコ平和芸術家の二村英仁のヴァイオリンです。私たち自身も「希望」を忘れず、「困難を乗り越える力」を信じて歩んでいきましょう。


M.H.(国語科)