シスター・先生から(宗教朝礼)

2023.05.31

2023年5月31日放送の宗教朝礼から

おはようございます。これから宗教朝礼を始めます。

  私が教育に携わる身として、大切にしていることがあります。それは「柔軟性」です。ここで言う柔軟性は、自分の軸となるものをしっかり持ちつつ、でも何事も決めつけずに、自分と違う価値観に対しても柔軟な姿勢で対応していくという意味です。今日の話のキーワードは「柔軟性」になります。それを心に留めながら聞いてもらえれば嬉しいなと思います。

  大学生の時の話です。サッカー部に所属していた私は、4年生の時に部員監督という役職に就いていました。部員が部のルールを守れているか確認したり、違反があった場合に罰則の対応をしたりする仕事です。部のルールである「部則」は4年生が話し合って毎年決めるもので、不二聖心で言うマナーブックのようなイメージです。伝統のある体育会の部活動ということもあり、部則はかなり厳しく、服装や欠席遅刻についても細かい決まりがありました。違反すると罰則として、一定の期間早く来て、グラウンドの草むしりや掃除をしなくてはならず、それを決めるのも4年生の仕事でした。

  その部則の中で「シーズン中の髪の毛は黒」と定められており、「色落ちで髪色が明るくなった場合は黒染め」というものがありました。ある日、後輩の部員から「髪の毛の色は、どこまで明るくなったら黒染めしなくてはいけないですか?」と聞かれました。それまでただ部則に従う側だった私は、すぐに答えることができませんでした。その後、4年生で集まり、そもそもなぜそのルールがあるのか、本当に必要なルールなのかを、時代背景と部の伝統とを考慮しながら話し合い、髪色の明るさを示すトーンで、何番まで来たら黒染めするというように決めました。

  この時にありがたかったなと思うのは、その後輩も「なんで明るくしちゃだめなんですか?おかしいです。時代に合ってません!」という言い方ではなく、「この決まりってきっと代々受け継がれてるもので、4年生も作るの本当に大変だったと思うんですけど、真っ黒じゃなくて、例えばここまでなら大丈夫だろうみたいなラインを決められるものでしょうか?」というように、ただのクレーマーではなくて、一緒に同じ組織を作り上げていくメンバーとして、具体的な改善策を持って、4年生の立場も考えながら相談をしに来てくれたことです。これ以外にも、同じような相談がいくつかあり、その都度話し合いを重ねていきました。

  このような経験を経て、私は何かをする時やルールなどについて「何のためにそれをするのか」という目的を意識するようになったと同時に、「どこが変えない方がいい大切な軸で、どこが柔軟に変えていくべきところなのか」を考えることの重要性を学びました。

  この考え方は、その後大学院に進んだ時やサッカーコーチをしている時、そして不二聖心に来てからも、あらゆる場面で必要とされることが多く、「柔軟性」の1つの例なのかなと考えています。皆さんも、学校生活を送る中であらゆる場面に遭遇し、どうしたらいいんだろうと対応に困ることもあると思います。そんな時には、何事も「決めつける」ことはせず、「どこが変えない方がいい大切な軸で、どこが柔軟に変えていくべきところなのか」を常に考えていく力が、変化の激しい今の時代を生きるために大切なんじゃないかなと私は考えています。

  また、少し話はそれますが、いくら望んでも、どう頑張っても思い通りにいかないこと、残念ながらたくさんあります。そういう出来事に直面した時、つい誰かのことを悪く言ってしまったりすることはないでしょうか?

  本当にしんどいと思います。何か対処する必要があります。ただ、まちがえてはいけないのは、どれだけ思い通りにいかなかったりして、苦しいことがあったとしても、それは誰かを傷つけていい理由にはならないということです。もちろん誰かだけでなく自分自身のこともです。物理的に暴力を振るったりということだけでなく、きつい言葉を浴びせたり、悪口を言ったり、嫌な態度をとったり、他の人に言ってほしくないことを言うことも傷つけることです。

  必ず別の方法があります。簡単ではないかもしれないですが、その方法を一緒に考えてくれる人は必ずいます。これ以上、思い通りにいかないことを理由に誰かを傷つけることはやめませんか?

  それ以外にも、今とてもとても忙しくて、どれだけ頑張っても、やることはどんどん増えていって、やらなくてはいけないことが多すぎて終わらない。けどそれに体がついていかない。という人もいると思います。

聖書より

「すべて、疲れた者、重荷を背負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう。」マタイによる福音書11章28節です。この続きも是非読んでみてください。

  もうひとつ、成人式の時の話をさせてください。久しぶりに地元の友だちと会う機会になった成人式でしたが、ある友だちに再会しました。中学校の時のサッカーの友だちで、SNSを通してなんとなく近況を知っているような間柄でした。その友だちの生まれてきた時の体の性別は女性で、メンズスーツを着ていました。最初に「久しぶり!」と声をかけた時に、「久しぶり!」と返してくれ、その時に返ってきた声が低くなっていることに気がつきました。20歳の時の私はまだLGBTQに関する知識はほとんどなく、どうしていいかよくわかりませんでした。服装を見た時は全然違和感なくいましたが、声を聞いた時、何と返事をするのがいいのか一瞬迷いました。その時は歩きながらすれ違う程度の会い方だったので、そのまま「元気?」「元気!」「また会おうね〜」と言って終わりましたが、それがその友だちにとって良かったのかどうかはわかりません。後日再会した時、「話したくなかったらいいんだけど」と前置きをして話を聞くことができ、トランスジェンダーであること、その治療によって声が低くなっていたことを教えてくれました。本人に了承を得ているのはここまでなので、この話はここまでにします。

  さて、皆さんならこの場面で何と声をかけたでしょうか?あくまで今回は、本人の了承を得て皆さんにお話をしています。本来であれば、本人の了承なしに他の人にセクシュアリティを話すことは「アウティング」という危険行為ですので、絶対にしないでください。

  私は毎年、宗教朝礼で性の多様性に関する話をするようにしています。それは確実にこの学院の中にも当事者がいるし、そうでない人でも、この先、生きていく上で必ず関わることがあるからです。もちろん、誰が当事者であるかを明らかにする必要は全くありません。私はそれが誰であってもいいと思います。これは昨年もお話ししたことですが、大事なことなので何度でも言います。

  この学校では、FRP(不二レインボープライド)の活動を始め、性の多様性に対する理解が広がりつつあると感じており、素晴らしいことだと思っています。ですが、正直なところ、校内で配慮のない発言を耳にし、悲しい思いをすることもあります。13人に1人がLGBTQ当事者だと言われています。この学校で計算すると、1学年に6人、全校で36人ほどです。「さすがにそんなにいないだろう」と思っている人もいるかもしれません。ですが、そのくらいの人数は全然いますし、それが誰でもいいと思います。明らかにする必要も誰かに認めてもらう必要も全くありません。そのままの自分を大切にしてください。

  ただ、間違えないでほしいのは、これは自分の意志で決めるものではないということです。カミングアウトや治療を自分の意志で決めることはあっても、セクシュアリティを自分で「決める」ことはありません。どちらかと言うと、どのセクシュアリティが自分にとって1番自然でいられるものかどうかを、時間をかけて探していくことが多いです。中には、物心つく幼稚園の時から違和感を覚える人もいれば、大人になってから自分のセクシュアリティに気付いたりする人もいます。

  私が伝えたいことは、この学校に当事者は必ずいるということです。これは生徒の皆さん、そして教職員の方々にも声を大にしてお伝えしたいことです。それが誰かという話ではありません。いつでも目の前に当事者がいると思って発言をしてほしい、そう思います。日本はまだ、性の多様性に関して配慮のある国とは言えないと思います。それでも、ここ不二聖心から、少しでも誰もが生きやすい環境作りができたらいい、私はそう思います。

  先日おこなわれたTRP(東京レインボープライド)2023を、少しだけですが見に行きました。『変わるまで続ける』をテーマにとても多くの人が性の多様性やその権利について強いメッセージを発信しており、素敵な空間だなと感じました。

  最後に、今日の話を通して私が皆さんに伝えたいことは、どんなときでも「決めつけないこと」そして「軸と柔軟性を大切にすること」です。LGBTQの話も含め、この想いが届くまで、私は伝え続けたいと思います。

  これで宗教朝礼を終わります。 

( N・I 保健体育科)

関連プロファイル

1-12:自分の中にある自己中心性に気づき、それを是正しようとしています。
1-14:周囲への気遣いや、細やかな心配りができます。
1-16:他者の立場に立ってその人の心を理解しようとしています。
1-17:逆境や失敗の中でも働いておられる神の存在に気づき、希望を持って生きていくことができます。
2-10:国際社会、環境、政治など、さまざまなことがらに問題意識を持つことができます。
3-1:自ら考え行動する力が育ってきています。
3-8:学校共同体の一員として、自分の役割を認識し、働くことができます。