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フィールド日記

2013.06.16

ホオジロの鳴き声を録音しました

 

2013.06.16 Sunday
今日の夕方6時に牧草地から見た空です。ようやく青空を見ることができました。檜の木の上ではホオジロが鳴いていました。鳴き声を録音することはできましたが、檜の樹高が高いために鳥の姿をしっかりカメラに収めることはできませんでした。よりはっきりとした姿を御覧になりたい方は下記のURLをクリックしてください。
フィールド日記 2011.11.04 ホオジロ


 

今日のことば

釣法釣技や釣具にしても、その一つ一つが人と自然との交感から紡ぎ出された文化の結晶である。それぞれの土地にそれぞれの川が流れ、川の恵みが豊かである限り文化が育まれ、その担い手としての職魚師がいる。職魚師と川の自然はいのちの連環でつながっている。翻って、いまほど口とは裏腹に、人と自然の関係が疎んじられている時代もない。川の伝承的文化が途絶し衰滅しつつある、という現実が、そのことを如実に示している。
『職魚師伝』の書評(根深誠)より

2013.06.15

雑木林で幼鳥に出会いました

 

2013.06.15 Saturday
昨日の早朝に、「夏休み子供自然体験教室」で歩く予定の雑木林で鳥の雛と出会いました。巣立ち直後の幼鳥かと思います。風景に同化していて最初は鳥には見えませんでしたが、よく見るとたいへん愛らしい姿をしています。ムクドリの幼鳥のようにも見えますが、全くの見当違いかもしれません。現在、専門家に同定の依頼中です。
 

今日のことば

畑を耕す人々の、朝にはまだ蕾と見て通った雑草が、夕方には咲ききって蝶の来ているのを見出すように、時はいくかえりも同じところを、ながめている者にのみ神秘を説くのであった。

「野鳥雑記」(柳田国男)より  

2013.06.14

エビヅルとブドウハマキチョッキリ



2013.06.14 Friday
牧草地の横の道で、ブドウハマキチョッキリがエビヅルの葉で作った葉巻状のゆりかごを見つけました。ゆりかごの中には、わずか2ミリの幼虫が入っていました。ブドウハマキチョッキリは葡萄の害虫としても知られています。不二聖心の「共生の森」の土地はかつて葡萄園でした。当時の管理者の方は、ブドウハマキチョッキリ対策に知恵を絞ったのかもしれません。
ブドウハマキチョッキリの成虫は下記のURLで見られます。
http://serigaya.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-286c.html

今日のことば

森は水をつくり
水は人を育て
なのに人は水を
汚しながら生きる

水は流れ流れ
いつか海に届き
海は水を癒し
いつか空に帰す

水は空に抱かれ
やがて雲に変わり
風が雲を運び
雨は土に戻る

雨は木々にしみて
草木は慈しみ
土は水を清め
森は土をつくる

私は木を植える
いつか森をつくる
私は木を植える
いつか森をつくる

 「木を植えた男」(さだまさし)より

2013.06.13

サルトリイバラとホウセンカヒゲナガアブラムシ





2013.06.13  Thursday
台風3号から変わった熱帯低気圧の影響で雨の朝となりました。牧草地の横の道に生えているサルトリイバラの葉も水滴で濡れているのがわかります。サルトリイバラには棘があり、「猿を捕らえられる茨」という意味でサルトリイバラと名付けられたと言われます。小笠原諸島や伊豆七島には棘のないサルトリイバラが自生しています。天敵のいない島では棘の必要性が低く、棘のない姿に進化したのではないかと考える人もいるようです。
サルトリイバラの葉の裏にはサルトリイバラを寄主とするホウセンカヒゲナガアブラムシが潜んでいました。オレンジ色の個体が幼虫で黒色の個体が成虫です。ホウセンカヒゲナガアブラムシの二次寄主はツリフネソウです。不二聖心のどこかに、あのユニークな姿の花を咲かせる植物が自生しているかもしれません。

 

今日のことば

なんじの若き日になんじの造主(つくりぬし)を覚えよ。
コヘレト書のことば

2013.06.12

コンボウアメバチ  静岡県で4例目の採集記録

 

2013.06.12 Wednesday
6月10日に平本政隆教諭によって校内で採集されたハチはコンボウアメバチという、ヒメバチの仲間に属するハチであることがわかりました。蛾の幼虫に寄生するかなり大型の寄生蜂です。静岡県では4例目の採集記録となります。


 

今日のことば


ヒメバチ科は寄生蜂の中でも最も種数の多いグループで,国内からは1507種が報告されている(渡辺,2011c).主に鱗翅目や鞘翅目昆虫の幼虫や蛹に寄生し,重要な天敵昆虫として知られる種も少なくない.国内のファウナ報告は断片的であり,十分に報告されている県はほとんどない.
静岡県のヒメバチについてのまとまった記録は驚くほど少なく,わずかに池田(1976)による17種の報告があるのみである.ヒメバチの研究者が使用した標本も他県に比べ少なく,県レベルでみて,静岡県はまさに分布の空白地帯といえる.
静岡県は茶や蜜柑の栽培が盛んであり,杉林や竹林も多く,これらに関連する害虫の天敵を考える際に,その地域のヒメバチ相を整理しておくことは,大変意味のあることである.また,県内には環境の良い森林がいくつも残されており,いくらかの南方系の昆虫の分布北限になっていることからも,国内におけるヒメバチの分布を考える上でも重要な地域であるといえる.

『静岡県産ヒメバチ目録』(渡辺恭平・蒔苗博道)より  

2013.06.11

クヌギの樹液の湧出と発酵  ショウジョウバエ  ヨツボシケシキスイ  ヒカゲチョウ







2013.06.11 Tuesday
「夏休み子供自然体験教室」の観察のコースを今から努めて歩くようにし、動植物の様子を把握することを心がけています。今朝は雑木林のクヌギの木の樹液の湧出と発酵を確認しました。5月31日の時点で樹液が出始めていることは確認していましたが、今日はその発酵がずいぶん進んでいることがわかりました。発酵した物質を好むショウジョウバエがたくさん集まっていたのがその何よりの証です。他にもヨツボシケシキスイ(3枚目の写真)やヒカゲチョウ(4枚目の写真)も集まってきていました。いったい一本のクヌギの木がどれだけの種類の生物を養っているのか、今年はぜひ数を数えてみたいと思っています。

夏休み子供自然体験教室について
http://www.fujiseishin-jh.ed.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=297
不二聖心のヒカゲチョウについて
フィールド日記 2012.09.05 樹液の雫  ヒカゲチョウ

今日のことば

ショウジョウバエとは「猩々」のことである。酒が好きでいつも飲んだくれている、あの伝説上の大きなサルのことである。かつてはオランウータンがそのモデルだといわれ、東南アジアのオランウータンを「猩々」と呼んだ時代もある。アフリカのチンパンジーは黒猩々、ゴリラは大猩々であった。
ショウジョウバエとゴリラはどうもイメージが結びつかないが、本来の酒好きのショウジョウとはぴったりである。ショウジョウバエはほんとうに酒が好きなのだ。だからどこからともなく現れて、晩酌のグラスに寄ってくるのである。

日高敏隆  

2013.06.10

イタチタケ  水中に発生するキノコを知っていますか

 

2013.06.10  Monday

「共生の森」でイタチタケの写真を撮りました。イタチタケはナヨタケ属(Psathyrella)に属するキノコです。ナヨタケ属のキノコは400種ほどあり世界中に分布していますが、最も有名なのはアメリカのオレゴン州で発見された、水中に発生するキノコ(Psathyrella acuatica)でしょう。2010年に新種として認められました。実物の画像を御覧になりたい方は下記のURLをクリックしてみてください。
http://earthfix.opb.org/flora-and-fauna/article/biologists-search-mountain-streams-for-oregons-und/

今日のことば

Discovering new habitat for complex organisms such as mushrooms is something you might expect in the Amazon, or along the deep oceanic trenches. But here they are, waiting for us in the Rogue River in Southern Oregon.
Robert Coffan (Psathyrella acuaticaの発見者)

2013.06.09

藤原定家とテイカカズラ

 

2013.06.09 Sunday

中学3年生の国語の授業で池内了の「『新しい博物学』の時代」という文章を読みました。最新の科学技術を駆使してもわからなかった、かに星雲の超新星爆発の起った年が、藤原定家の残した日記『明月記』の記録(後冷泉院の天喜二年四月中旬以後、丑の時客星が觜參の度に出づ。東方に見はれ、天関星に孛す。大きさ歳星の如し。)で明らかになったことを紹介し、理科系の知と文科系の知を結び付けることの意義を説いた文章です。大歌人、藤原定家は天文学にも多大なる貢献をしていたわけですが、定家が関わりを持つのは天文学だけではありません。植物学の分野にも定家は関係があります。今の時期に花を咲かせるテイカカズラの「テイカ」は藤原定家に由来しているのです。式子内親王に思いを残して死んだ藤原定家は式子内親王の墓にツル性の植物となってからみつきます。その植物が後に「テイカカズラ」と名付けられたという話が残っているのです。不二聖心の裏道には、高木にからみついたテイカカズラから落ちてきた花がたくさん見られます。
 

今日のことば

西隣りの市橋貞吉爺さんは六十を越えた親切なおじさんであった。私はこの人から魚を釣る事も小鳥を飼う事も教わった。村の小学校では教えてくれないが、貞吉爺さんは手を取って教えてくれた。そして曲がっている釣針にみみずを餌にして川の中に放り込む方法まで一々教えてくれた。それで貞吉爺さんが大好きであった。私は兵庫県神戸港で生れたが大自然の中で育ったのは阿波吉野川の感化であった。それで今でも私は四歳から十一歳までの児童は農村で育てた方が自然を通して神を知るには良いと思っている。阿波吉野川は日本でも珍しい美しい川である。恐らく日本であれだけ美しい川は他にないであろう。また西洋でもあれだけ美しい川は多く見る事は困難である事と思っている。それで私は東京、大阪の子供等を大自然に返す運動を絶えずしている。エミールを書いたルソーは教育の基本として自然に帰れと叫んでいるが私も大賛成である。農村で育った私は本当に自然を楽しんだ。農村を知っていたから私は創造主が良くわかった。

                       賀川豊彦(昭和34年12月12日)

2013.06.08

サワガニは右利きか左利きか



2013.06.08 Saturday

不二聖心の校舎の裏の道を歩いているとたくさんのサワガニに出会います。サワガニを見たら確認するように心がけているのが、左右のハサミの大きさです。左右の大きさが違ったら、その個体はオスということになります。次に確認するのは、左右のどちらが大きいかということです。ほとんどの場合、右が大きいと言われています。サワガニも右利きが多いようです。江戸時代にシーボルトに頼まれて甲殻類の絵を多く残した川原慶賀のサワガニの絵(参考1)も右のハサミが大きく描かれています。しかし左が大きい個体もいないわけではありません。(2枚目の写真は右のハサミが落ちていますが、左のハサミの形状と大きさから左が大きいことがわかります。)第48回自然科学観察コンクールで2等賞を受賞した「三沢川流域のサワガニたちの生活」という研究(参考2)の中には、「はさみ:オスは片方のはさみが大きくてかっこいい。メスのはさみは、左右が同じ大きさで小さめ。オスでは左右どちらが大きいのか。三沢川流域の76匹のうち右が大きいのが55匹、左が21匹で8:3の比率。右のはさみが大きいカニが多かった。」という興味深い調査結果が記録されています。

参考1
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/b04/image/01/b04s0330.html

参考2
http://www.shizecon.net/sakuhin/48jhs_2.html

今日のことば

どんなに自分は孤独だと叫んでも、人間は本当に孤独にはなりきれません。競馬場にいる一頭の馬と心のどこかでつながっていたりする。言葉では成立しない何かによって、世の中のいろいろなものと実はつながっていると、ふときづく瞬間があって、そこに含まれているのは喜びなんですね。

小川洋子  

2013.06.08

ウドの葉とヒメシロコブゾウムシ  ジレンホールとツュンベリー

 

2013.06.07 Friday

「共生の森」でウドの葉の上にいたヒメシロコブゾウムシの写真を撮りました。日本にはこれとよく似た形状のゾウムシが何種かいますが、画像のゾウムシは背中の黒い模様からヒメシロコブゾウムシだと判断できます。ヒメシロコブゾウムシはウドやタラを食草としており、これらの植物を栽培している農家にとっては頭の痛い存在です。ヒメシロコブゾウムシの学名(Dermatoxenus caesicollis)は1833年にスウェーデンのナチュラリスト、レオナルド・ジレンホールによってつけられました。ジレンホールは「分類学の父」と呼ばれたリンネの弟子です。5月7日のフィール日記で、箱根からたくさんの動植物をスウェーデンに持ち帰ったナチュラリストとして紹介したツュンベリーもリンネの弟子でした。二人がリンネの弟子であった時期には重なりがあります。ヒメシロコブゾウムシの命名者と箱根ゆかりのナチュラリストが親しく言葉を交わすような機会があったかもしれません。
ツュンベリーに関連する記事を読みたい方は下記のURLをクリックしてください。
フィールド日記 2013.05.07 マルバウツギとツュンベリー


 

今日のことば

今日,学問の世界では,進化を基盤とする分子生物学という更に新しい分野がめざましい発展をみせ,これにより系統を重視し,分類学に おいてもこれを反映させていく分類学が,より確実なものとして主流を占めてきています。
若い日から形態による分類になじみ,小さな形態的特徴にも気付かせてくれる電子顕微鏡の出現を経て,更なる微小の世界,即ちDNA分 析による分子レベルで分類をきめていく世界との遭遇は,研究生活の上でも実に大きな経験でありました。今後ミトコンドリアDNAの分析により,形態的には区別されないが,分子生物学的には的確に区別されうる種類が見出される可能性は,非常に大きくなるのではないかと思われます。私自身としては,この新しく開かれた分野の理解につとめ,これを十分に視野に入れると共に,リンネの時代から引き継いできた形態への注目と関心からも離れることなく,分類学の分野で形態のもつ重要性は今後どのように位置づけられていくかを考えつつ,研究を続けていきたいと考えています。
In academia today, an even newer field of research, molecular biology based on evolution, is seeing remarkable development. As a result, more importance is placed on phylogeny, and systems based on phylogeny are considered to be more accurate and are now the mainstream of taxonomy.  
As I have been familiar with classifications based on morphology since I was young, the appearance of the electron microscope which enabled me to observe minute morphological characteristics, and my encounter with an even smaller world, where classification is based on DNA analysis at a molecular level, have been great experiences for me as a researcher.
In the years ahead, I think the analysis of mitochondrial DNAs will open up great possibilities of discovering new species which cannot be distinguished morphologically but which can be clearly distinguished at a molecular biological level. I hope to understand and take into consideration this newly developing field of research, but at the same time, I intend to continue to give my attention to and keep up my interest in morphology, which is a field of study carried on from Linné's days. I would like to continue my research, always keeping in mind the question of what will be the importance and role of morphology in the field of taxonomy in the future.

「リンネ誕生300年記念行事での天皇陛下の基調講演(原文英文)」より