フィールド日記
2013.06.06
「共生の森」で八重のドクダミを発見
2013.06.06 Thursday
「共生の森」で八重のドクダミを見つけました。
江戸時代の方言を集めた『物類称呼』には、駿河沼津の方言として「しびとばな(死人花)」というドクダミの異名が紹介されています。おもしろいことに、一方では、この花の美しさを愛でて園芸品種を作り出し、八重のドクダミを楽しんだという記録があります。「共生の森」に一輪だけ咲く八重のドクダミの花は昔の人の心を優しく語りかけるかのようです。
今日のことば
おまえを大切に
摘んでゆく人がいた
臭いといわれ
きらわれ者のおまえだったけれど
道の隅で
歩く人の足許を見上げひっそりと生きていた
いつかおまえを必要とする人が
現れるのを待っていたかのように
おまえの花
白い十字架に似ていた
星野富弘(ドクダミの花の絵に添えられた詩)
2013.06.05
ミズキの実 骨格標本とヒメマルカツオブシムシ
2013.06.05 Wednesday
5月13日の「不二聖心のフィールド日記」で紹介したミズキの花はもうすでに実に変わっていました。2枚目と3枚目の写真はミズキの花から採集したヒルマルカツオブシムシという体長約3ミリの甲虫です。この虫は肉食ですが、骨は食べません。その性質を利用して骨格標本を作る時に利用されます。衣服の繊維を食べる害虫としても知られます。衣装ダンスで暗躍することもあるこの虫は、なぜか真っ白い花を好むそうです。不思議なことです。ミズキの白い花をご覧になりたい方は下記のURLをクリックしてください。
フィールド日記 2013.05.14 ミズキの花に集まる虫たち
今日のことば
大きなものから生かされている歓びと安堵を感ずるようになったのは、戦場に立った頃からであった。
戦いの或る夜、私は死も生も分別つかぬ、極度に疲労した骨と肉とを草原にころがしていた。わずかに心臓と胃の腑だけが動き、他のすべての機能が停止してしまったかのようなあの瞬間、私の網膜が、何の感動もなくぼんやりと眼の前の草花を映しているのに気付いた。
(ここにも生きものがある。しかも、それは、私という生きものと何ら本質の異なるものじゃない。すべて真如に生かされ、真如の前にあっては同質の存在だ。)
私は、ささくれだった黒い砂漠の石を握ってみた。これは単に無機物にすぎない。そういう分類の仕方で従来私の頭は組み立てられて来た。無機物と有機物、草花と私とを統合する何ものも持たなかったし、また、統合出来る質もものであろうとは夢にも思っていなかった。ところが、その瞬間以来、私は大きな衝撃をもって今までとは違った世界に入っていったのだ。
司馬遼太郎
2013.06.04
幻のアジサイ シチダンカ
2013.06.04 Tuesday
「共生の森」のシチダンカが花を咲かせました。シチダンカは、江戸末期に作られたシーボルトの『日本植物誌』に記載されていたにもかかわらず実物の所在地が長く不明で、「幻のアジサイ」と呼ばれていました。昭和34年に兵庫の六甲で発見され、それ以来挿し木で増えたシチダンカが全国に広まりました。その中の1本をしばらくの間、不二聖心でも楽しむことができそうです。
今日のことば
数字のうえでは、昨日のように今日があり、今日のように明日がある。だがわたしたちの世界は数字だけで動いているのではない。そのとき人間にとって、日付はもっとも深遠な問いとなる。
港千尋
2013.06.03
日本のアミスギタケとアメリカのアミスギタケ
2013.06.03
「共生の森」に隣接する池の近くでアミスギタケの写真を撮りました。アミスギタケの学名はPolyporus arcularius Batschで、Batschは18世紀にドイツで活躍したナチュラリストのAugust Batschに由来しています。ドイツでもアミスギタケを見ることができるということです。
アメリカのキノコの研究者のMichael Kuoさんはアミガサタケを採りに行く人がよくこのキノコを見かけると書いています。日本ではアミガサタケとアミスギタケの発生時期はかなり違います。同じキノコでも国によって発生時期が大きく異なるということでしょう。地域ごとの発生時期の違いも、それぞれの自然の大切な個性です。気候変動などの影響で、その個性が失われることがないように強く願っています。(「不二聖心のフィールド日記」のアミガサタケの記事を御覧になりたい方は下記のURLをクリックしてください。)
フィールド日記 2012.04.28 クビキリギス アミガサタケ
フィールド日記 2011.05.04 アミガサタケとモリアオガエル
フィールド日記 2012.04.19 イロハモミジの新緑 アミガサタケ
今日のことば
高校3年生の短歌より
無理だよとたとえ何度も言われても私は戦う勝ちとるために
寒かったり暖かかったり毎日は気まぐれなんだね私みたいに
昔なら忌み嫌ってたブラックも今ならわかるカカオの魅力
2013.06.02
栗の花に集まる虫たち(ベニカミキリ、ヤマトシジミ、エグリトラカミキリ、キボシツツハムシ)
2013.06.02 Sunday
松尾芭蕉に「世の人の見付けぬ花や軒の栗」という句があります。クリの花があまり目立たないことを詠んだ句ですが、6月に不二聖心で咲く花の中で最も多くの昆虫を集めるのは、おそらくクリの花です。掲載した写真は今日の14時30分から約10分の間に写した写真です。(1枚目ベニカミキリ、2枚目ヤマトシジミ、3枚目エグリトラカミキリ、4枚目ハナムグリ、5枚目キボシツツハムシ)10分の間に次から次へと被写体が現れました。「世の人の見付けぬ花」が生物相の多様性の維持に大きく貢献していることになります。
今日のことば
どんなおうこくもざいほうも
キミがここにうまれたという
きせきにはかにわない
しりあがり寿
2013.06.01
夏休み子供自然体験教室の下見でクサボケの実を発見
2013.06.01 Saturday
昨日は、「夏休み子供自然体験教室」の職員スタッフ全員でコースの下見を行いました。その下見の途中で数学科のK先生が貴重な発見をなさいました。クサボケの実を見つけたのです。「夏休み子供自然体験教室」の講師で、植物調査の豊富な経験を持つ平本政隆教諭もクサボケの実を見るのは初めてだとおっしゃっていました。確かに周辺にたくさんあるクサボケの枝を確認しても他には全く結実のあとが見られませんでした。K先生は他にももう一つ貴重な発見のきっかけをつくってくださったのですが、それについては俄かに信じがたい事象でしたので、もう少し詳しく調査をしてから発表したいと思います。
今日のことば
木瓜咲くや漱石拙を守るべく 夏目漱石
2013.05.31
不二聖心の茶草場 ナキイナゴの動画
2013.05.31 Friday
掛川市など5市町の、茶畑の周辺の茶草場を活用した「静岡の茶草場農法」が、5月29日、世界農業遺産に認定されました。不二聖心にも茶草場があり、茶草場のススキは有機肥料として使われ、茶草場には多くの絶滅危惧種が生息しています。世界農業遺産と同等の価値のあるものが不二聖心にも存在すると言えるでしょう。今朝はその茶草場にナキイナゴの声が満ちていました。5月最後の日にナキイナゴのたくさんの声を耳にしたことを大切な記録としてとどめておきたいと思います。
今日のことば
茶草場――刈り取って茶畑に敷き詰めて有機肥料とするため、茶畑の周囲でススキやササなどを育てている草地。県内で見られる特徴的な風景で、希少な植物や昆虫など多様な生物の宝庫にもなっている。茶草場で育てたススキなどを肥料とする伝統的な農法を「茶草場農法」と呼ぶ。
朝日新聞(2013.05.30)より
2013.05.30
スイカズラとシェイクスピア
2013.05.30 Thursday
例年より早く梅雨入りし、今日はかなり激しい雨の降る一日となりました。梅雨時の不二聖心で最も目立つ花の一つがスイカズラです。スイカズラ科の花は世界に約500種ありますが、日本のスイカズラは、海外に帰化している例も見られ、Japanese honeysuckle と呼ばれています。シェイクスピアの『真夏の夜の夢』に出てくるwoodbineという植物はスイカズラ科に属し、翻訳者によってはスイカズラの和名である「忍冬」を訳語としてあてている場合もあります。シェイクスピアは、luscious woodbineと表現しています。luscious(香りが良い)というのもスイカズラの仲間の大きな特徴です。梅雨の鬱陶しさを花の香りで多少なりとも忘れることができたらと思います。
今日のことば
あぢさゐの花雨に濡れ父の機が撃ち落されしその日近づく 結城文
四十二で死にたる父に晩年のなきこと思ふ戦なき世に 結城文
2013.05.28
ニジュウヤホシテントウが教えてくれること
2013.05.28 Tuesday
昨日紹介したアメリカイヌホオズキにニジュウヤホシテントウがついていました。よく見かけるナミテントウはアブラムシを食べてくれる益虫ですが、写真のニジュウヤホシテントウは植物の葉を食い荒らす害虫です。イヌホオズキの葉も食べれば、茄子の葉も食べれば、トマトの葉も食べます。さて、これらの植物に共通することは何でしょうか。それは、すべてナス科に属するということです。見た目では確認しにくい植物の共通性を、虫たちが食べ物の好みで教えてくれることが多々あります。
今日のことば
やはりストーリィには悲哀がなければならない。悲哀は愛に変わる。
新美南吉
2013.05.27
畑地を好むアメリカイヌホオズキ
2013.05.27 Monday
5月22日に「共生の森」でナス科の植物の写真を撮りました。イヌホオズキと見当をつけたのですが、そう言い切るには問題がありました。イヌホオズキは5月ではなく8月に咲く花なのです。専門家の方にご意見を求めたところ、アメリカイヌホオズキという帰化植物であろうという回答を得ました。やはり花期からの判断ということです。英語版のウィキペディアにはアメリカイヌホオズキについて次のような説明があります。
It can grow on sandy and poor soil, but prefers fertile and cultivated soil types.
つまりアメリカイヌホオズキは、痩せた土地でも育つが肥えた畑地をより好むということです。朝日新聞社から出ている「植物の世界」84号では、アフリカのイヌホオズキも畑の周辺でよく見られると書かれていました。「共生の森」もかつては畑地でした。pHをはかるとそのことがよくわかります。アメリカホウズキは「共生の森」の土地の歴史を静かに語りかけているのかもしれません。
今日のことば
タレントのテリー伊藤さんが何年か前、テレビの討論番組で語気を強めていたのを思い出す。「サザエさんを見て、悲しいと思う子供たちもたくさんいるんですよ」。国際機関の統計によると、日本は貧しい子供の割合が先進国の中で4番目に高いという。標準の半分以下の所得しかない家の児童は時を経て増え、今や6人に1人がカツオくんでもワカメちゃんでもないらしい。
編集手帳(2013.5.26)より