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フィールド日記

2012年03月

2012.03.10

ネコノメソウ

 2012.03.10 Saturday 

 朝のNHKのニュースでクチバシカジカの話題をとりあげていました。南三陸町に生息するクチバシカジカは震災以後、全く見られなくなっていましたが、先日ようやくその姿が確認され、復興のシンボルとされるようになったということでした。生き物の健気に生きる姿は不思議と人に生きる力を与えます。
今朝は東京で雪が降り、裾野市も冷たい雨の朝となりましたが、その中でもタゴガエルの声は崖の穴の奥からはっきりと聞こえてきていました。穴の近くにはたくさんのネコノメソウが生えています。ネコノメソウは希少種で県によっては絶滅危惧種に指定しています。
貴重な動物の周囲には貴重な植物もまた多いということなのでしょう。

 

今日のことば

 作家にはトリックも仕掛けも必要ではない。それどころか、作家になるには、とびっきり頭の切れる人間である必要もないのだ。たとえそれが阿呆のように見えるとしても、作家というものはときにはぼうっと立ちすくんで何かにーーそれは夕日かもしれないし、古靴かもしれないーー見とれることができるようでなくてはならないのだ。頭を空っぽにして、純粋な驚きに打たれて。
 

                             レイモンド・カーヴァー 

2012.03.09

ミツバアケビ

  2012.03.09 Friday 

 ミツバアケビの冬芽が、日々少しずつ姿を変えています。上の写真は冬芽の今の姿、下の写真は2月20日に撮影したものです。ミツバアケビは、春たけなわになると、濃い紫色のユニークな形の花を咲かせます。

 アケビ科の植物については、前川文夫博士が実に興味深いことを『植物の進化を探る』
(岩波新書)の中に書いています。以下に引用してみましょう。

 

 アケビ科は日本からヒマラヤ、さらに南にかけてかなりの種類があります。それからひどくはなれて南米チリの南部の辺にほんの少し二属二種が分布しています。この分布はこれまた不思議な分布です。なぜ太平洋の全く反対側に生えているのかという疑問を禁じえません。
前回の調査の折に、中部チリの山の中でこれに出会いました。まさにミツバアケビとムベのちょうど合の子のような形の葉が付いていて、それまで一度も生品はもちろん、標本さえ見たことがなかったのに一目見てすぐわかりました。ということは東アジアのアケビ科との間に非常に血が濃いということを膚で感じとったからでしょう。それがこんなふうに飛び離れて分布しているのは、やはりこれはかつて古い赤道にずっと沿って分布していたのだけれども、赤道の移動に伴ってだんだん条件が悪くなり、多くのところでは絶滅してしまい、結局ヒマラヤ、日本、南アジアの一地域とチリの局所とにだけ残されたのであるとみるよりほかには理解ができないのです

この文章は、アケビ科の植物が大陸移動の生き証人であることを伝えています。一つの植物をじっくり見つめることは、時として地球の歴史に思いを馳せることにもつながるのです。

 


今日のことば


この一日一日を
大切に過ごしなさい
人生とは
この一日のことです
いのち、とは
この一日のことです
今まで沢山あるし
これからも沢山ある
と思って
何も考えず
ただ漫然と
同じことを繰り返しては
いけません

                 葉祥明

2012.03.08

タチツボスミレ

 2012.03.08 Thursday 

 裏の駐車場から奥へと続く道では春の草花をたくさん目にすることができます。今朝は、今年初めてタチツボスミレの開花を確認しました。春になってこの花を目にすると、決まって夏目漱石の「菫ほどな小さき人に生まれたし」という句を思い出します。司馬遼太郎は「漱石の人と生涯と作品が、この一句でわかるような気がする」という意味の文章を書き残しました。
漱石はなぜ「小さき人に生まれたし」と思ったのか。司馬遼太郎はこの句のどこに漱石という人間の全体を見たのか。長い時間をかけて考え続けていく価値のある問いだと思います。

 

今日のことば

 あなたの心のなかの未解決のものすべてに対して、忍耐強くなってください。たとえば錠のおりた部屋のように、あるいは外国語で書かれた書物のように、問いそのものを愛するように努めるのです。いますぐ答えを探さないでください。あなたはまだ答えをみずから生きていないのですから、いま、答えを与えられることはありません。すべてを経験することが大切なのです。今は、問いを生きる必要があります。そうすればいつの日か、徐々に、知らず知らず、答えを経験している自分に気づくことでしょう。
                           ライナー・マリア・リルケ

2012.03.07

ウグイス ホソヒラタアブ フキノトウ フクロウ

  2012.03.07 Wednesday 

 朝、今年はじめてウグイスの声を聞きました。今年は例年に比べてずいぶん遅いように感じます。
啓蟄を過ぎて季節は一気に進みました。裏の駐車場のツバキの花には3種の双翅目の昆虫が訪花していました。下の写真はそのうちの1種、ホソヒラタアブです。ツバキのすぐ近くに生えているフキノトウも少し見ない間に、成長がずいぶん進んでいました。
夜、帰る時にはフクロウが鳴いていました。真っ暗な森から聞こえてくる低音のフクロウの声は実に神秘的でした。


 
 


今日のことば

自信があると、何でも自分でできるから、一人で抱え込む司祭になってしまう。大事なのは、「人の心が分かる」こと。だから、自分の無力さを感じている司祭の方がいい。

                               荻喜代治神父

2012.03.06

タマヤドリコバチ

  2012.03.06 Tuesday 

 昨日は啓蟄でしたが、それを待っていたかのようにクヌギエダイガフシからさまざまなハチが羽化し始めました。クヌギエダイガフシという虫こぶを形成するのはクヌギエダイガタマバチですから、それ以外のハチはみなタマバチに寄生しているということになります。下の写真のハチはタマヤドリコバチで、写真は大きく拡大されていますが、実際の体長は3ミリほどです。金属光沢の美しいハチですが、肉眼ではその美しさに気づくことはまずありません。3ミリのタマヤドリコバチがクヌギエダイガタマバチに寄生する瞬間も肉眼で確認することは不可能でしょう。私たちの回りには、気付くことのできない命のつながりが無数に存在しているのだろうと思います。

 


                                 今日のことば

学校の成績とか、会社の成績が一位だったってェやつに人の心がわかるもんか。大部分の
人間は一位じゃねェんだもの

                           『無名人名語録』より

2012.03.05

アオゾメタケ

2012.03.05 Monday

 キノコの絵を書いてごらんと言われたら、多くの人は傘の部分を茶色にするのではないでしょうか。
写真のキノコはそのような一般的なキノコのイメー ジとはかけ離れているキノコです。アオゾメタケという
名前からもわかるように、成長すると青色を帯びてくるキノコなのです。裏道で見かけました。

今日のことば

その思想がたとえ高潔なものであっても、人間の最終目標は思想ではなく行動である。

The end of man is an action and not a thought, though it were the noblest.

                    トマス・カーライル

2012.03.04

タゴガエルの卵塊

2012.03.04 Sunday

 驚くべき発見をしました。タゴガエルのひそむ崖の近くの地面にタゴガエルの卵塊がいくつも落ちていたのです。先日の大雨の際に崖の中の穴から溢れ 出たものと推測されます。流れ出た卵塊は、ゼリー状の物質により、木の枝や落ち葉にしっかり付着していました。思わぬ発見によりタゴガエルの産卵が既に行 われていたことを確認できたわけです。
改めて地層を見てみたところ、礫を含む地層と富士山の火山灰が降り積もった地層が重なっている様子が確認できました。富士山の火山活動によって作られた 地形がタゴガエルに生息場所を提供しているのです。
富士山と関わりの深い希少生物であるタゴガエルは、不二聖心の宝と言ってもいいでしょう。

今日のことば

魂に光をそそいでくれることばは、どんな宝石より貴重である。

The words that enlighten the soul are more precious than jewels.

                  ハズラト・イナーヤト・ハーン

2012.03.03

タゴガエル サワガニ ニホンヒメフナムシ

2012.03.03 Saturday

 崖の中で鳴く幻のカエル、タゴガエルの生息調査を続けています。今日は、昨日生息を確認した穴に複数の個体がいることを鳴き声から確認しました。さらに この穴の近くの別の壁からたくさんの声が聞こえてくるのも確認し、録音することができました。タゴガエルは砂岩層と泥岩層の間にできた空間に生息すること が多いという調査結果があります。
もしかしたら、裏道の壁の地層もタゴガエルの生息状況と関係があるのかもしれません。
 タゴガエルの調査にあたり、専門家のアドバイスを受けたところ、タゴガエルのいる場所の近くにはサワガニがいることが多いというご教示を受けました。今 日は、タゴガエルのひそむ穴のすぐ下にサワガニの死骸を見つけました。甲羅の中にはニホンヒメフナムシが潜んでいました。
近くの壁にはサワガニの巣も確認 できました。

                  今日のことば

英知とはつぎになにをするかを知っていること、技術はそれをどうやるかを知っていること、
徳はそれをおこなうことである。
                        デイヴィッド・スター・ジョーダン

Wisdom is knowing what to do next, skill is knowing how to do it, and virtue is doing it.

2012.03.02

タゴガエル

2012.03.02

 裏道でキチャワンタケの発生の有無を確認していたら、崖の中からカエルの声が聞こえてきました。
「幻のカエル」と呼ばれるタゴガエルの声です。 「グオッ、グオッ」という、くぐもったような独特の声が穴の奥から聞こえてきます。どうやら穴の奥に水がしみ出ていて、そこでタゴガエルが生活しているら しいのです。この声は毎年、同じ穴から聞こえてきます。
タゴガエルは天敵の少ない今の時期に産卵をするのですが、その時期だけ鳴き声を聞くことができるのです。
声は聞こえても姿を見ることはできないので、穴の写真だけ撮っておきました。
日本各地で絶滅危惧種に指定されている貴重なカエルが不二聖心の一角でひそかに生き続けています。
このカエルについて詳しく知りたいという人には、『幻のカエル ――がけに卵をうむタゴガエル――』
(大木淳一 新日本出版社)という名著をお薦めします。

 

   今日のことば

雨のおとがきこえる
雨が降っていたのだ
あの音のようにそっと
世のためにはたらいてゐよう

             八木重吉

2012.03.01

ツバキキンカクチャワンタケ

2012.03.01  Thursday

今日から3月に入りました。
寄宿と本館の間の中庭で、理科の平本政隆教諭がツバキキンカクチャワンタケの発生を確認しました。
ツバキキンカクチャワンタケはツバキにだけ発生するキ ノコです。昼休みには平本教諭の説明に楽しそうに耳を傾ける中学3年生の姿も見られました。自然界の不思議に目を向ける生徒がこのような観察を通して一人でも多く育っていくことを願っています。
キノコの愛好家の中には今の時期に発生するツバキキンカクチャワンタケを「春キノコのアイドル」と呼ぶ人もいます。

                   今日のことば

あなたがこの世の偉大なものとともに、ささやかなものにも歓びを見出すことをわたしは願っています。
一輪の花、ひとふしの歌、あなたの手のひらにとまる蝶にも。

                               エレン・ラヴァイン