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フィールド日記

2013年02月

2013.02.07

校舎の裏で5年連続ツチグリの発生を確認

  2013.02.07 Thursday

 平成21年の春から4年続けて校舎の裏でツチグリ(Astraeus hygrometrics)の発生を確認してきました。5年目の今年はどうかと楽しみにしていましたが、今日、5つのツチグリの発生を確認することができました。学名のAstraeus hygrometricsは「星形の湿度計」という意味です。外皮が裂けて開いた状態がまさに星形をしているのが、写真からもわかります。NHKの関連のホームページでは、ツチグリが開いていく時の素晴らしい映像が公開されています。

http://www.nhk.or.jp/rika/micro/?das_id=D0005100146_00000

今日のことば

 植物が地上にあらわれたのは四億五千年前。それからの長い年月、植物にとって平穏無事な毎日ばかりではなかった。地球の歴史のなかで、植物は気候の変動を乗り越え、あらゆる環境に適応していった。あるときは病原菌にむしばまれ、あるときは迫り来る動物や昆虫から身を守らねばならないこともあっただろう。また、あるときには生活空間や光を奪い合って、ほかの植物と激しい生存競争を繰り返すこともあったにちがいない。そして、あるものは、昆虫に花粉を運ばせるために花を発達させ、あるものは鳥に種子を運ばせるために果実を発達させた。
こうして生き残りをかけて、壮絶ななかにも華麗なる進化を遂げた植物たちは、さまざまな特性を身につけたのである。そして、人間はそれを利用して文化を創造し、豊かな暮らしを築き上げた。何気ない日々の暮らしのなかで活躍する植物も、そのルーツをひもとけば、人間と植物それぞれの思惑が交錯したドラマが存在するのである。

稲垣栄洋  

2013.02.06

東北大学で温暖化指標生物と見なされたヤツデ

 

 2013.02.06 Wednesday
東北大学の広報誌『まなびの杜』に東北大学名誉教授の鈴木三男先生が、興味深いことをお書きになっていました。仙台で見られるヤツデは、かつては冬の寒さで枯れていたのに最近は越冬できるようになったというのです。地球温暖化の影響であろうということでした。不二聖心では築山のヤツデが白い実をつけています。これからは不二聖心でヤツデを見るときにも温暖化指標の植物という視点を持って見ていきたいと思いました。

今日のことば

 ほんとうに、世のなかが機械化し、便利になればなるほど人間は、なでさするようにして物をだいじにし、具体的な物から影響を受け、物から学ばなくてはならないのである。物が自分を育ててくれることを考え、物をだいじにしていかなければならないのだ。そういうことをしないと、みんなふわふわしてしまい、自分や自分の考えのない、機械の部品のような人間になってしまうのだ。

斎藤喜博  

2013.02.05

シダからタマアジサイに寄主転換するコモチシダコブアブラムシ



 2013.02.05 Tuesday
 2月3日にヤマイタチシダの葉裏から採集したアブラムシがコモチシダコブアブラムシであることがわかりました。このアブラムシはシダからタマアジサイへと寄主転換します。なぜシダの次がタマアジサイなのか。自然界の不思議は尽きません。

今日のことば

 自我を抑えて無差別智を働かせている時には真我があらわれる。私についていえば、数学の研究に没頭している時は、私は生きものは決して殺さないし、若草の芽もみな避けて踏まない。だから真我の内容は慈悲心であることがわかる。私はこれを数学の研究によって体得したのだが、真、善、美、どの道を進んでもみな同じだと思う。

岡潔  

2013.02.04

図書館の花壇の紅梅

 

 2013.02.04 Monday
図書館の前の花壇の紅梅がしばらく前から咲き始めています。梅の品種は無数にありますが、これは緋梅系と呼ばれる種類で枝の髄まで紅いと聞いたことがあります。紅梅の紅色は木全体で生み出している色なのかもしれません。

今日のことば

さくらばな陽に泡立つを目守りゐるこの冥(くら)き遊星に人と生れて

山中智恵子

2013.02.03

ついにタゴガエルが鳴きました

  2013.02.03  Sunday 

 不二聖心には、「幻のカエル」と呼ばれるタゴガエルが生息しています。タゴガエルは、岩穴の中で生活し真冬に産卵するという珍しいカエルの生態です。(写真はタゴガエルの生息場所を移したものです。この崖の中から声が聞こえてきます。)真冬に一度冬眠から目覚め、交尾・産卵をして再び眠りにつくと言われます。2月に入ってから、交尾期に聞かれる鳴き声がしていないか、観察してきましたが、ついに今日、鳴き声を録音することができました。富士山麓全体でもタゴガエルの生息場所はほとんど残っていないと言われます。貴重な鳴き声をどうぞお聞きください。

 

 

 今日のことば

 昨日の新聞から266 平成24年5月28日(月)

 『幻のカエル ―― がけに卵をうむタゴガエル ――』
(大木淳一 新日本出版社)を読む
―― 幻のカエルを不二聖心で発見 ――

 数年前の二月の寒い日のことでした。不二聖心の裏道を歩いていて「グワッ、グワッ」という不思議な声を耳にしました。声の出所を探ってみると、裏道の壁面にできた岩穴にたどりつきました。その穴の奥から「グワッ、グワッ」という声が、少しずつ間を置きながら聞こえてきていたのです。
おそらくカエルの声ではないかと思って調べてみたら、アカガエル科のタゴガエルという種類のカエルが岩穴の奥で生活していることがわかりました。それからこのカエルについての興味が高まり、いろいろな文献を読みましたが、その中で最も興味深かったのは『幻のカエル ――がけに卵をうむタゴガエルーー』という絵本でした。作者は大木淳一さん。大木さんは千葉県立中央博物館の学芸員で専門は地質学です。地質学とタゴガエルは一見、結びつかないように思うかもしれませんが、実は地質学者としての知識がタゴガエルを研究する上で非常に役に立ったのです。タゴガエルは特殊な環境にしか生息できないカエルで、その環境には地層の成り立ちが深く関わっているからです。
生息環境と聞こえてくる声から、岩穴の奥にいるのはタゴガエルに間違いないと思っていましたが、できれば声だけではなく実際の姿を見てみたいとずっと思い続けてきました。
今年の春は慶応義塾大学のカエルの専門家の先生にも、不二聖心の岩穴の画像を見ていただき、いかにもタゴガエルがいそうな場所だというお答えをいただきました。先生からのアドバイスを参考にインターネットでタゴガエルの鳴き声を再度確認し、穴からの声と全く同じであることも確かめました。こうして岩穴の奥には間違いなくタゴガエルがいると確信するに至ったのです。
しかし、それでも一度実物を見てみたいという思いはなかなか捨てきれませんでした。穴の中に頭を突っ込んで必死に穴の奥をペンライトで照らしたりもしてみましたが、タゴガエルの姿は見ることができませんでした。
そんなある日のことです。岩穴の様子を見ようとすると、穴の手前に何か光るものを見つけました。よく見ると卵塊です。それはどう見てもカエルの卵塊でした。
日本でよく見られるアカガエル科のカエルは3種います。3種は非常によく似ていて見分けるのは容易ではないのですが、卵には大きな違いがあります。穴の前に落ちていた卵は間違いなくタゴガエルの卵でした。
ここで一つ疑問が生じます。タゴガエルは岩穴の中に卵をうむカエルなのに、なぜ岩の外に卵が落ちていたのかということです。 
一つだけ考えられる理由がありました。
この発見をする数日前、静岡県東部は大雨に見舞われました。その時には、タゴカエルの住処を含む地層にも大量の雨水が流れ込んだと想像できます。その雨水がタゴガエルの卵を岩穴の中から外へと押し流した可能性が考えられるのです。
流れ出した卵をいくつか自宅に持ち帰り、飼育を試みましたが成功しませんでした。もしすべての卵が押し流されたとしたら、今年は新しい世代が誕生しないということになってしまいます。穴の中にまだ卵が残っていれば、世代がつながることになります。それを確かめる方法が一つだけありました。タゴガエルは子ガエルになったら一度、岩の外に出てくる習性があるのです。運がよければ子ガエルの発見によって世代が途切れなかったことを確認できるかもしれないのです。
5月16日の朝のことでした。
岩穴の周辺を確認していると、イワボタンの葉の上に何やら茶色いものが乗っています。それは体長わずか七ミリの子ガエルでした。ついにタゴガエルの姿を確認できたのです。一匹見つかると次から次にカエルを発見することができ、最終的には10匹近くのカエルを確認することができました。(5月16日の「不二聖心のフィールド日記」参照)
タゴガエルは特殊な環境にしかすめないカエルです。具体的には上下二つの地層の重なりが必要です。しかも上は水を通す地層、下は水を通さない地層でなくてはなりません。そして間に空間が必要です。上の層からしみ出した水が下の層の上にたまり、そこが水たまりになります。その水たまりがタゴガエルの生息場所となるのです。
この地層の成り立ちには富士山の火山活動が影響しています。富士山の噴火によって積み重ねられた火山灰が不二聖心の地層の中には確実に含まれています。不二聖心という「富士」の名をいただく学校にとって、富士山の火山活動に密接に関わる生き物は、特別な意味を持つ生き物だと言えるでしょう。
タゴガエルの観察会を開きたいと願っていましたが、いつのまにかカエルは姿を消してしまいました。穴の中に戻っていったのか、それとも別の場所に移動したのか、あるいは天敵に襲われたのか、それはわかりません。カエルの実物をお見せすることは難しくなりましたが、『幻のカエル ―― がけに卵をうむタゴガエル ―― 』を読めば、タゴガエルをたっぷり楽しむことができます。
最後に『幻のカエル ――がけに卵をうむタゴガエルーー』のあとがきを引用しておきましょう。

 これってカエルの本? ちょっと地味だなと思われた方がいるかもしれません。
でも、生き物って、大地を形作る地質の影響を受けているんだなーと感じた場面をつづっていったらこの本ができ上がったのです。
タゴガエルというあまり知られていないカエルに注目したことで、地質学しか知らなかった時に歩いた山でも、今では自然の見方がガラッと変わってしまいました。
これも博物館に学芸員として勤めて専門分野を気にしないでフィールドを歩き、生き物たちと触れ合いながら自然の仕組みを調べてきた結果だと思います。
過去に何が起きていたのか、今何が起きているのかを、貴重な資料だけでなく身のまわりの何気ない情報(資料)も蓄積し、後の世代の人たちへ伝えること、それが博物館の使命だと思います。これからもいろいろな形でみなさんに自然の仕組みを紹介していきます。
何が人生の転機となるか分かりません。博物館へ出かけて展示を見るも良し、観察会へ参加して自然と触れてみてはいかがでしょうか? きっと素敵な出会いがありますよ。

2013.02.02

『大草原の小さな家』の作者は本当にポポーを見たのか



2013.02.02 Saturday

今日の「天声人語」は、「寒のゆるみ」という言葉で始まっていましたが、その言葉がふさわしい暖かい一日となりました。静岡市では21.7度の最高気温を記録し、全国的にも3月中旬から5月上旬の気候であったということです。この暖かさのためか、イスノフシアブラムシから寄生蜂のツヤコバチが2匹羽化しました。ここのところ続けて羽化が確認されており、ツヤコバチがイスノフシアブラムシの体を越冬場所として利用している可能性が高まってきました。寄主特異性についての研究が進めば、アブラムシの生物農薬としての利用も可能になるかもしれません。
さて、1月28日の「不二聖心のフィールド日記」で、不二聖心のお茶畑の生えているポポー(写真参照。2011年10月に撮影したものです。)がローラ・インガルス・ワイルダーの『わが家への道』に登場することに驚いたと書きました。「小さな木になった見るからに甘く熟れた、わたしの知らない果物など、とにかく、野生の果物が、たわわに実っているのだ。」という一節に「野生の柿とポポー(北米温帯地方産の果樹)」という注がついていたのです。ここで疑問に思うことは、なぜ「わたしの知らない果物」とだけしか書かれていないのに、「野生の柿とポポー」と限定できるのかということでした。その疑問を解消するためには、原文にあたるしかないと思っていしまたが、今日、その原文を確認することができました。原文は次のようになっていました。

 luscious-looking fruits ripening in little trees that I don’t know※ , a lavishness of fruit growing wild.
※ These were wild persimmons and pawpaws.

 注は翻訳時につけられたものではなく、原書にもついていたのです。ポポーは北アメリカの植物相を考える上で大切な植物でもありますので、もう少し調べを進めてみたいと思います。

 


今日のことば

「小さな家シリーズ」は、家族の物語であり、したがって主人公はローラだけではない。とうさん、かあさん、メアリ、キャリー、グレイス、そして、アルマンゾ、ローズ、それぞれが実際に生きていた人たちであり、だれ一人として欠けてはならないほど個性的なキャラクターである。ローラは自分の家族を自慢の財産だと誇りにし、家族との思い出を「消えてしまうのはもったいないほどすばらしい」と思って、この物語を書いた。開拓時代の歴史は決して楽ではなかったはずだが、ローラの筆にかかると、冬の吹雪も、こわい狼のほえ声も、じめじめした土の家も、すべてが冒険の対象になる。ローラは生きることを楽しむ達人であり、それは終生変わらなかった。
「『大草原の小さな家』の世界について」(谷口由美子)より

2013.02.01

すすき野原の乾し草  フィトンチットの効用

  2013.02.01 Friday

 不二聖心で以前、理科を教えてくださっていた保坂貞治先生が、岳麓新聞に「緑の地球環境3 日常生活の中でのフィトンチットの効用」というタイトルの文章をお書きになりました。たいへん興味深い内容でしたので、一部を引用してみたいと思います。

野菜が淡白な味で癖がなくて食べやすいのは長い間の品種改良のたまものです。その結果、野菜は食べやすくおいしくなりましたが、私たちが畑から採集して持ち帰り、食べ残したり忘れて放置すると数日で痛み、やがて腐ってしまうのです。山野草には、本来生長の過程で出合う様々な細菌や微生物などから身を守る自己防衛物質のフィトンチットがあります。この成分は野菜の持つエゴミや辛み、あく、香りの成分です。この成分は食べにくいが何かしら薬効があり、健康に良い効果があります。山野草は採集したり、刈り取ってそのまま放置しても、この成分のお陰で腐らず水分を失うが、乾燥して干からびることを経験的にご存じだと思います。土手の草を刈ってそのままにして置くと、乾草になるのはそのためなのです。

 不二聖心でもすすき野原の縁に刈り取られた草が積まれていて、いつのまにか乾し草になっていました。この姿こそが野の草であることの証だったのです。

                               今日のことば

                      欲無ければ一切足り、求むるあれば万事窮す。

    
                                                                                                                   良寛