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フィールド日記

2013.05.23

「林業女子会@静岡」代表 本戸三保子さんの講演

 2013.05.23  Thursday


 

 昨日は「林業女子会@静岡」の代表を務めていらっしゃる本戸三保子さんが高校1年生の総合学習の時間に「林業の魅力 ~木と私たちの暮らしをつなぐもの~」という演題で講演をしてくださいました。大学で森林資源に関する研究をなさり今は林業家として親方について仕事をなさっている本戸さんは、おそらく他に例を見ない経歴の持ち主と申し上げてよいのではないかと思います。講演では本戸さんからしかうかがえない話をいろいろと聴くことができました。何より心を打たれたのは、その誠実な語り口と林業に対する熱い思いでした。最後の質疑応答も活発になされましたが、生徒からの「林業のお仕事でいちばんたいへんなことは何ですか」という質問に、しばらく考え込んでしまった本戸さんの姿が印象的でした。「たいへんなこと」が簡単には思いつかないぐらい本戸さんは林業の仕事が大好きでいらっしゃることがよくわかりました。本戸さんの許可を得て講演原稿の一部を以下に引用させていただきます。日本に、このような志を持って林業に携わっている方がいらっしゃるということ自体が林業を元気にする力となるように思います。

 

 

 私と林業との出会い


林業は危険な力仕事で男の仕事だといわれています。「危険、きたない、きつい」の三拍子がそろっていて、さらに山へ女の人が入ることをタブーとする考え方が未だに残っています。
どうして私がそんな仕事に飛び込んだのかというと、高校生のころ私は環境問題に関心があり、生物が生きる環境を作り出しているのは森林だと思い、静岡大学の森林資源科学科へ進みました。
そして、大学3年生のときのインターンシップ(職場体験)で静岡県森林組合連合会に10日間お世話になりました。そのとき初めて林業という産業を目の当たりにしました。山の伐採現場、丸太の市場、製材所などを案内していただき、山の木がどのように木材となって私たちの生活の中で使われるものになるのかを知りました。そして、職人の高齢化、後継者不足、丸太が安くて林業は衰退しつつあり、荒れた山が多くなっている現状を知り、私も何か役に立ちたいという思いが湧き上がりました。
そして、一番印象的だったのが山の伐採現場でした。木が倒れる時の迫力、プロの人たちの意気の合った手際のいい仕事ぶりに引き付けられました。そして何より自分たちの仕事に誇りをもって生き生きとしていて働く人たちの姿にその仕事の魅力を感じました。
そうしてその後、当時女性が現場で働いているという龍山森林組合へ同行させてもらいました。その時組合長をされていたのが今の私の親方である青山有一さんです。青山さんは「自分は山の仕事の経験があるから、女性でもできる仕事があると思い、やる気のある人を採用した。」とおっしゃいました。そして、「日本の山はまずは経済林として成り立たせることが大事。そうすればおのずと山はよくなる。環境はあとからついてくる。」「林業は現場で学べ。机上の空論では通用しない。」と熱く語ってくださいました。私はこのお話を聞いて、林業をやろうと決意しました。
しかし、実際は林業の求人は少なく、現場の仕事に女性を受け入れてくれるところはほとんどありませんでした。私はその時体力も経験もありませんでしたので、やる気だけのアピールでは無謀だったと思います。そうして何度か山へ通い、苗植えや草刈りなどの体験をさせてもらっているうちにやる気を認めてくださり、青山さんが組合長を辞めた後自分の山の管理をしていくからということで、指導していただきながら一緒に仕事をさせてもらうことになりました。
何とか希望通りの現場の仕事につけたものの、ほとんど山に来た経験がなかったので、はじめは山を歩くのも一苦労でした。毎日体のあちこちが痛くて、道具も重たく使いこなせないので、思うように仕事ができませんでした。それでも毎日清々しい空気と季節ごとに移り変わっていく緑の美しさに励まされ、ここでくじけてはいけないと思いました。
そうして1~2年くらい経つと体力もついてきて、今ではこの仕事の面白さがわかってくるようになりました。一本一本の木や地形は二つとして同じものはないので、毎回新しい発見があり経験の積み重ねが大事です。ベテランの72歳の師匠には無駄な力を使わずに道具をうまく利用すること、常に先を読んで作業をすることを教えてもらっています。
社会的意義を考えてもやりがいのある仕事であり、手入れをした山は本当にきれいになって応えてくれます。そして、山の中で全力で体を動かして仕事をすることはこの上なく気持ちのいいものです。
私は、この仕事と出会えてよかったと心から思っています。
林業は危険すぎるのであえてお進めはしませんが、世の中にはまだ知らない職業がたくさんあります。みなさんもこれからいろんな体験をして、自分のやりたいことを見つけてもらいたいと思います。見つけたら、たとえ困難があってもすぐにあきらめずに努力してほしい。私は自分の努力だけでなく、よき理解者との出会いがあって今があるのですが、そのようなチャンスがきたときにぐっと掴めるように挑戦してみてほしいと思います。

 


今日のことば

「林業女子会@静岡」代表 本戸三保子さんの講演の感想より

◎林業のことをあまり知らなかったので、今日知ることができて良かったです。林業は将来に希望を持てる職業だと思いました。ずっと何年も続いていき、環境を良くすることもでき、先生も「好きだから大変じゃない」とおっしゃっていて、すごく魅力的な職業だと思いました。私も将来、先生のように仕事に誇りを持って取り組める女性になりたいです。

◎環境問題のことについて私も興味があり、本戸先生も高校生の時に環境問題に興味があって、その後林業の仕事についたとおっしゃっていて驚きました。私の中の林業のイメージは木を伐っているだけというものだったのですが、今回話をうかがって「植える→育てる→伐る→使う」という循環系だと聞いたので、林業のイメージががらりと変わりました。
ヒノキの年輪を見せていただきましたのが、あれほどの年輪は見たことがなかったのでとても驚きました。

◎木戸先生のお話をうかがい、林業に対しての見方が変わった気がします。林業では、常に、50年後、100年後を考えながら作業をしていて、今木を伐れるのは昔ここに木を植えてくれた先祖のおかげで、今植えるのはこの先の子供たちのためだという話を聞き、たいへんだけれどもすごいことだと思いました。森林は再生可能な資源なので大切にしていきたいと改めて思いました。