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フィールド日記

2012.10.06

クサヒバリ(草雲雀)のメス  女中を泣かせた小泉八雲

 

 2012.10.06 Saturday

 9月21日の「不二聖心のフィールド日記」でクサヒバリのオスを紹介しました。あの日の翌日、
不思議なことが起こりました。実はあの日の画像で紹介したクサヒバリは同定のために採集して
しまったのですが、同じ場所で同じようにクサヒバリの鳴き声を耳にしたのです。どうやら不二
聖心には相当な数のクサヒバリがいるらしいと思いました。その予想が正しいことを証するかの
ように、裏道でクサヒバリのメスがイタドリの葉の上を歩いているのに出くわしました。翅の模
様がオスとメスとでは全く異なることがわかります。
ラフカディオ・ハーンはクサヒバリを死なせてしまった女中を泣かせるほど叱りつけました。
クサヒバリは、いつの世においても人の心をひきつけてやまない秋の鳴く虫です。


 
今日のことば
 

昨夜、十一月二十九日の晩のこと、机に向かっていると妙な胸騒ぎがした。部屋の中がなんだか空虚
なのである。そこでふと気がついた。いつも鳴いているはずの草雲雀が鳴いていない。静まりかえっ
た籠の中を覗いてみると、すっかり干からびて灰色の石のようになった茄子のかたわらで、草雲雀は
死んでいた。三、四日はなにも食べていなかったようだ。しかし、つい昨日まで、あんなに美しい声
で鳴いていたではないか。だから、私は愚かにも、いつもどおりお腹がいっぱいなのだと思いこんで
いたのである。
書生のアキが虫好きで、いつも餌をやっていた。ところが、アキは一週間ほど暇をもらって故郷へ帰
ってしまっていた。そのあいだ、草雲雀の世話をするのは、女中のハナの仕事になっていた。あれは
細かいことに気のつく女ではない。
虫のことを忘れていたわけではありません。茄子がなかったのです、とハナは言い訳を言う。ならば
代わりに玉葱でも胡瓜でもやればいいものを、そんなことさえ思いつかなかったのであろうか。
……私はハナを叱った。ハナはすまなそうに詫びたけれど、あの妖精の音楽はもう聞こえなくなって
しまった。あとの静けさが私の心を締めつけた。ストーブは燃えているのに、部屋はうす暗い。
馬鹿ばかしい!……麦粒の半分ほどしかない虫のために、気のいい娘を泣かせてしまうとは! 
けれども、あんなちっぽけな生きものがいなくなってしまったことが、まさかと思うほど私を苦しめ
る……。あの生きものの切なる願いについてたえず空想をめぐらせているうち、いつしか私の中に愛着
が生まれていたのであろう。こうして草雲雀がいなくなってみると、初めてあの生きものとの絆に気づ
いたのだろう。その晩のひっそりとした静寂の中で、私はあの繊細な鳴き声の妙味を、ことさら身に染
みていとおしく感じた。ほんのはかない虫の命が、神の御心にすがるように、私の気まぐれと身勝手な
楽しみを頼って生きていたのである。そしてまた、小さな籠の中の小さな魂と私の中の魂とが、実在世
界の大海の深みの中で、まったくの一体であると告げているように思われた。

                                                「草雲雀」(ラフカディオ・ハーン)より       
                                

I had felt so much, in the hush of the night , the charm of the delicate voice, -- telling of one minutes existence dependent upon my will and selfish pleasure, as upon the favor of a God,
--telling me also that atom of ghost in the tiny cage, and the atom of ghost within myself, were forever but one and the same in the deeps of the Vast of being.
                              LAFCADIO HEARN