フィールド日記
2012.12.29
野蚕ウスタビガの繭
2012.12.29 Saturday
牧草地の脇の道でウスタビガの繭を見つけました。ウスタビガは野蚕として知られるヤママユガ
科の蛾で、繭から天然の絹糸を採ることができます。幼虫の食草は、クヌギ、コナラなどのブナ科
の樹木や桜などで、冬の里山で一際目立つ緑の繭をよく見つけます。写真の繭は栗の木についてい
ました。クリもまたブナ科に属しています。
ウスタビガの繭が残る雑木林の風景は、日本の懐かしい風景の一つです。
今日のことば
世界に誇れるのは昔ながらの里山だ。雑木林も小川も田んぼも人が手を入れて持続可能に利用して
きた。これが崩れ、コウノトリのように一度は姿を消した生き物もいる。
田を知らない都会の子どもに田植えをさせると、「懐かしい」と言う。体験しても、していなくても、
懐かしい風景があります。30年以上前、八ヶ岳のふもとの荒れた人工林を買い、間伐をして広葉樹を
植え、雑木林はよみがえった。森を手助けして、生き物が機嫌良く暮らせるような環境をつくろうよ。
柳生博
お知らせ
ホームページ内の「不二の自然」を更新しました。画像をクリックすると拡大することができます。
http://www.fujiseishin-jh.ed.jp/modules/myalbum/viewcat.php?cid=1
2012.12.28
イヌツゲメタマフシ
2012.12.26 Wednesday
高校1年生が「共生の森づくり」をしている土地はかつて葡萄園でした。その葡萄の栽培を
していたご夫婦が住んでいた家が栗畑の近くに残っています。家の脇にはイヌツゲの木があり、
今も元気に成長を続けています。虫こぶは植物の細胞が増殖する力を利用して作られますが、
今年もイヌツゲの側芽の部分にイヌツゲメタマフシができていました。植物の組織がイヌツゲ
タマバエの幼虫の部屋に変化したわけです。イヌツゲタマバエの生活史についての研究によれば、
3齢幼虫で越冬するということですから、この部屋の中では小さな幼虫が静かに春を待っている
はずです。
今日のことば
確かな未来は、懐かしい風景の中にある。
柳生博
2012.12.27
野生の柿(ヤマガキ)を発見しました
2012.12.27 Tuesday
来年の総合学習に生かすために株式会社インプルに校内の植物の調査を依頼しました。調査を
してくださった野口英昭先生はたいへん博識で、植物についての興味深い話をたくさんうかがう
ことができました。
不二聖心のフィールドの植物について新しい発見もたくさんありましたが、その中の一つが写真
の柿です。これは第2牧草地の脇の道で見つけたヤマガキ(野生の柿)です。柿の木にたった一つ
実が残っていました。野口先生によると直径が3センチ以内のものが野生の柿とされるということ
でした。人間によって栽培されている柿の木の場合、故意に実を一つ残すことがあり、それを木守
柿と呼んで、俳句の季語にもなっています。
この実は、たまたま一つだけ残ったもののようですが、冬枯れの景色の中に赤い柿の実が一つ残っ
ている風景には何とも言えない風情があります。
今日のことば
烏瓜冬ごもる屋根に残りけり
室生犀星
2012.12.26
クヌギハオオケタマバチが冬芽に産卵しています
2012.12.26 Wednesday
12月16日にすすき野原に立つクヌギの木にたくさんのタマバチが発生しているのを見つけました。
専門家の方に標本をお送りして同定を依頼したところ、クヌギハオオケタマバチであることがわかり
ました。クヌギハオオケタマバチは冬芽に産卵することがわかっていますが、この時も冬芽にとまっ
ている個体をいくつも見かけました。
採集してさらに観察を続けたところ、ハチはケースの中に入っている冬芽をきちんと探し当て、再び
産卵を始めました。その時の様子を撮影しましたので、ご覧になりたい方は下記のURLをクリック
してください。産卵管を出し入れしている様子が脚の間から見えます。
http://www.youtube.com/watch?v=kqAgMzgBlfw
野外で産卵している様子です。
ケースの中で冬芽を探しています。
今日のことば
うまく使えた一日の終わりに快い眠りが訪れるのに似て、うまく使えた人生の後には穏やかな
死が訪れる。
塩野七生
2012.12.25
イラガの繭に小さな穴を見つけました
2012.12.25 Tuesday
イラガの繭を見つけました。イラガの繭の中に入っている幼虫は、昔からタナゴ釣りの餌として
使われてきました。イラガは、日本人の生活と長く関わってきた生き物です。
しかし、残念ながら写真の繭は釣り餌として使うことはできません。繭をよく見ると、穴が開いて
いることがわかります。この穴はイラガセイボウというハチが産卵のために開けた穴で、繭の中で
はイラガの幼虫を餌としてイラガセイボウの幼虫が育っているはずです。2つの穴のうちの1つには
丁寧に蓋までされています。おそらくイラガの幼虫はすでに萎れ始めていることでしょう。
来年の5月頃にはイラガセイボウという宝石のように美しいハチが羽化するはずです。
成虫の姿をご覧になりたい方は、下記のURLをクリックしてください。
http://tokyoinsects.web.fc2.com/hymenoptera/iragaseibou.html
今日のことば
娘が小学校三年生のとき、オーストラリア・カンガルー島のヒツジの牧場に九ヵ月ほど住んだ。
そのとき、ヒツジが日がな一日草を食んでいるので、ぼくは彼女に「ヒツジさんて、なに考えてる
んだろうね」と尋ねた。すると娘は、「草だよ。草しか見てないよ」。確かに動物は食べることしか
考えていないに違いない。ぼくは思わず「深いな」と感心してしまった。
岩合光昭
2012.12.24
「共生の森」のアワブキの冬芽
2012.12.24 Monday
「共生の森」の苗木の中には、根付いたものもあれば、枯れてしまったものもあります。
ほとんどの苗木は葉を落としてしまいましたが、冬芽がついているのを見ると木が生きていること
を確認できてうれしくなります。今日は、「共生の森」に高校1年梅組2班が植えたアワブキの写真
を撮ってみました。冬芽の形に個性があり、樹皮の白い模様も特徴的です。来年も、この小さな木
が風雪に耐えて成長を続け、大きく育ってほしいと願わずにはいられません。
今日のことば
どうもヒトは常に自分が主人公であることばかりを考えているようです。キリンにはキリンのおきて
があるのでしょう。シマウマにはシマウマのおきてがあるのでしょう。それらのおきてが絡み合って
壊れないようにまとまっているのがアフリカの大地なのです。
どうしてヒトとしての見方しかできないのだろうと自分をいさめるばかりです。
岩合光昭
2012.12.23
クワナケクダアブラムシ
2012.12.23 Sunday
12月18日にクヌギの虫こぶ(クヌギエダイガタマフシ)についているアブラムシを採集しました。
専門家の方に同定を依頼したところ、クワナケクダアブラムシGreenidea kuwanai (Pergande)で
あることがわかりました。危険が迫ると角状管の先端からは警戒フェロモンが分泌され、仲間に危険
を知らせるそうです。
今日のことば
人間の知識や考え方には、どうしても限界があるように思う。誰かがどこかで出会った現実が、
普遍的なことのように誤解され、「世界の常識」になってしまう。「ライオンとは……である」
と定義されても、セレンゲティのライオンと、ボツワナや他の地域のライオンとでは生態が異なる。
もちろん顔つきだって違う。多くの場合、野生動物を見るときに、最初に結論を出してしまっている
ような気がしてならない。その結論に導くには、目の前で起きていることをどういうふうに解釈した
らいいか。頭の中でそれを確認している。現実が後ろからついてくる。
それでは野生動物は見えてこない、とぼくは思う。考えるよりも、まず見る。「ヒトが見る目」を
はずし、まったく別個の生きものとして、虚心坦懐に見る。そうしなければ、いつまでたっても
野生動物とヒトとの関係は変わらないのではないか。
岩合光昭
2012.12.21
パンジーとハナアブ
2012.12.21 Friday
図書館の花壇のパンジーにハナアブ(ナミホシヒラタアブのメス)が来ていました。ハナアブの多く
はハチに擬態することによって敵から身を守ろうとしています。12月に入ると受粉昆虫として活動で
きる虫の種類は極めて少なくなりますが、不二聖心では天気の良い日には双翅目の昆虫が花に集まる
様子を観察することができます。
ハチに擬態するハナアブについてお知りになりたい方には、高桑正敏先生の「擬蜂虫 ―ハチを見た
らハチでないと思えー」(「自然科学のとびら」第7巻第3号)を読むことをお勧めします。
http://nh.kanagawa-museum.jp/tobira/7-3/takakuwa.html
今日のことば
いつでもとこでも
「いま」「ここ」、が
自分の「いのち」の正念場
自分の一番大事なところ
相田みつを
2012.12.20
モリオカメコオロギの2種類の鳴き声
2012.10.20 Saturday
「共生の森」でモリオカメコオロギを見つけました。同定のために採集し鳴き声を記録してみたところ、
モリオカメコオロギはさまざまに鳴き分けることがわかりました。たくさんの鳴き声から2種の鳴き声を
紹介します。
今日のことば
夜の歌い手である蟋蟀(こおろぎ)には、多くの種類がある。蟋蟀という名前は、「キリキリキリキリ、
コロコロコロコロ、ギイイイイイ」という鳴き声から由来している。その変種の中にエビ蟋蟀というのが
いるが、これはまったく鳴かない。しかし、馬蟋蟀、鬼蟋蟀、閻魔蟋蟀はいずれもみな、立派な音楽家で
ある。色はこげ茶か黒で、この歌の上手な蟋蟀たちの翅には、変わった波形模様がついている。
蟋蟀に関する興味深い事実は、八世紀の中頃に編纂された日本最古の『万葉集』という歌集に、この虫の
名が出ていることである。次の歌は、優に一千年以上も昔の読み人知らずによる作である。
庭草に村雨ふりてこほろぎの鳴く声聞けば秋づきにけり
(にわか雨が、庭草に降り注いだ。こおろぎの鳴く声を聞けば、秋がやって来たこと が知れることだ)
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)
2012.12.20
不二聖心で発見された黒曜石
2012.12.20 Thursday
元用務員の中家さんから不二聖心のフィールドで見つかった黒曜石と石斧の刃部を見せて
いただきました。(写真の石斧の柄の部分は中家さんが想像で作られたものです。)他にも
明らかに細工を施したと見られる石片がいくつも見つかっており、不二聖心の土地が遥か昔
から人間の生活の場であったことがうかがわれます。
今日のことば
なんにもない なんにもない
まったく なんにもない
生まれた 生まれた 何が生まれた
星がひとつ 暗い宇宙に 生まれた
星には夜があり そして朝が訪れた
なんにもない 大地に ただ風が吹いてた
やがて大地に 草が生え 樹が生え
海には アンモナイトが 生まれた
雲が流れ 時が流れ 流れた
ブロントザウルスが 滅び
イグアノドンが 栄えた
なんにもない 大空に ただ雲が流れた
山が火を噴き 大地を 氷河が覆った
マンモスのからだを 長い毛が覆った
なんにもない 草原に かすかに
やつらの足音が聞こえた
地平線のかなたより マンモスの匂いとともに
やつらが やって来た
やって来た
やって来た
園山俊二