フィールド日記
2012.03.07
ウグイス ホソヒラタアブ フキノトウ フクロウ
2012.03.07 Wednesday
朝、今年はじめてウグイスの声を聞きました。今年は例年に比べてずいぶん遅いように感じます。
啓蟄を過ぎて季節は一気に進みました。裏の駐車場のツバキの花には3種の双翅目の昆虫が訪花していました。下の写真はそのうちの1種、ホソヒラタアブです。ツバキのすぐ近くに生えているフキノトウも少し見ない間に、成長がずいぶん進んでいました。
夜、帰る時にはフクロウが鳴いていました。真っ暗な森から聞こえてくる低音のフクロウの声は実に神秘的でした。
今日のことば
自信があると、何でも自分でできるから、一人で抱え込む司祭になってしまう。大事なのは、「人の心が分かる」こと。だから、自分の無力さを感じている司祭の方がいい。
荻喜代治神父
2012.03.06
タマヤドリコバチ
2012.03.06 Tuesday
昨日は啓蟄でしたが、それを待っていたかのようにクヌギエダイガフシからさまざまなハチが羽化し始めました。クヌギエダイガフシという虫こぶを形成するのはクヌギエダイガタマバチですから、それ以外のハチはみなタマバチに寄生しているということになります。下の写真のハチはタマヤドリコバチで、写真は大きく拡大されていますが、実際の体長は3ミリほどです。金属光沢の美しいハチですが、肉眼ではその美しさに気づくことはまずありません。3ミリのタマヤドリコバチがクヌギエダイガタマバチに寄生する瞬間も肉眼で確認することは不可能でしょう。私たちの回りには、気付くことのできない命のつながりが無数に存在しているのだろうと思います。
今日のことば
学校の成績とか、会社の成績が一位だったってェやつに人の心がわかるもんか。大部分の
人間は一位じゃねェんだもの
『無名人名語録』より
2012.03.05
アオゾメタケ
2012.03.05 Monday
キノコの絵を書いてごらんと言われたら、多くの人は傘の部分を茶色にするのではないでしょうか。
写真のキノコはそのような一般的なキノコのイメー ジとはかけ離れているキノコです。アオゾメタケという
名前からもわかるように、成長すると青色を帯びてくるキノコなのです。裏道で見かけました。
今日のことば
その思想がたとえ高潔なものであっても、人間の最終目標は思想ではなく行動である。
The end of man is an action and not a thought, though it were the noblest.
トマス・カーライル
2012.03.04
タゴガエルの卵塊
2012.03.04 Sunday
驚くべき発見をしました。タゴガエルのひそむ崖の近くの地面にタゴガエルの卵塊がいくつも落ちていたのです。先日の大雨の際に崖の中の穴から溢れ 出たものと推測されます。流れ出た卵塊は、ゼリー状の物質により、木の枝や落ち葉にしっかり付着していました。思わぬ発見によりタゴガエルの産卵が既に行 われていたことを確認できたわけです。
改めて地層を見てみたところ、礫を含む地層と富士山の火山灰が降り積もった地層が重なっている様子が確認できました。富士山の火山活動によって作られた 地形がタゴガエルに生息場所を提供しているのです。
富士山と関わりの深い希少生物であるタゴガエルは、不二聖心の宝と言ってもいいでしょう。
今日のことば
魂に光をそそいでくれることばは、どんな宝石より貴重である。
The words that enlighten the soul are more precious than jewels.
ハズラト・イナーヤト・ハーン
2012.03.03
タゴガエル サワガニ ニホンヒメフナムシ
2012.03.03 Saturday
崖の中で鳴く幻のカエル、タゴガエルの生息調査を続けています。今日は、昨日生息を確認した穴に複数の個体がいることを鳴き声から確認しました。さらに この穴の近くの別の壁からたくさんの声が聞こえてくるのも確認し、録音することができました。タゴガエルは砂岩層と泥岩層の間にできた空間に生息すること が多いという調査結果があります。
もしかしたら、裏道の壁の地層もタゴガエルの生息状況と関係があるのかもしれません。
タゴガエルの調査にあたり、専門家のアドバイスを受けたところ、タゴガエルのいる場所の近くにはサワガニがいることが多いというご教示を受けました。今 日は、タゴガエルのひそむ穴のすぐ下にサワガニの死骸を見つけました。甲羅の中にはニホンヒメフナムシが潜んでいました。
近くの壁にはサワガニの巣も確認 できました。
今日のことば
英知とはつぎになにをするかを知っていること、技術はそれをどうやるかを知っていること、
徳はそれをおこなうことである。
デイヴィッド・スター・ジョーダン
Wisdom is knowing what to do next, skill is knowing how to do it, and virtue is doing it.
2012.03.02
タゴガエル
2012.03.02
裏道でキチャワンタケの発生の有無を確認していたら、崖の中からカエルの声が聞こえてきました。
「幻のカエル」と呼ばれるタゴガエルの声です。 「グオッ、グオッ」という、くぐもったような独特の声が穴の奥から聞こえてきます。どうやら穴の奥に水がしみ出ていて、そこでタゴガエルが生活しているら しいのです。この声は毎年、同じ穴から聞こえてきます。
タゴガエルは天敵の少ない今の時期に産卵をするのですが、その時期だけ鳴き声を聞くことができるのです。
声は聞こえても姿を見ることはできないので、穴の写真だけ撮っておきました。
日本各地で絶滅危惧種に指定されている貴重なカエルが不二聖心の一角でひそかに生き続けています。
このカエルについて詳しく知りたいという人には、『幻のカエル ――がけに卵をうむタゴガエル――』
(大木淳一 新日本出版社)という名著をお薦めします。
今日のことば
雨のおとがきこえる
雨が降っていたのだ
あの音のようにそっと
世のためにはたらいてゐよう
八木重吉
2012.03.01
ツバキキンカクチャワンタケ
2012.03.01 Thursday
今日から3月に入りました。
寄宿と本館の間の中庭で、理科の平本政隆教諭がツバキキンカクチャワンタケの発生を確認しました。
ツバキキンカクチャワンタケはツバキにだけ発生するキ ノコです。昼休みには平本教諭の説明に楽しそうに耳を傾ける中学3年生の姿も見られました。自然界の不思議に目を向ける生徒がこのような観察を通して一人でも多く育っていくことを願っています。
キノコの愛好家の中には今の時期に発生するツバキキンカクチャワンタケを「春キノコのアイドル」と呼ぶ人もいます。
今日のことば
あなたがこの世の偉大なものとともに、ささやかなものにも歓びを見出すことをわたしは願っています。
一輪の花、ひとふしの歌、あなたの手のひらにとまる蝶にも。
エレン・ラヴァイン
2012.02.29
キジ
2012.02.29 Wednesday
裏の駐車場でキジの姿を見かけました。不二聖心では授業中にもよくキジの声を耳にします。その姿を見かけることも多く、キジの方も人馴れしているのかあまり警戒心を抱いていないようです。
芭蕉は「父母のしきりに恋し雉の声」と詠みました。不思議と人の心の奥深くを揺さぶる雉の声です。
今日のことば
あなたがたは地上に富を積んではならない。そこでは、虫が食ったり、さび付いたりするし、また、盗人が忍び込んで盗み出したりする。富は、天に積み なさい。そこでは、虫が食うことも、さび付くこともなく、また、盗人が忍び込むことも盗み出すこともない。あなたの富のあるところに、あなたの心もあるの だ。
マタイによる福音書
2012.02.28
ホトケノザ 中学3年生の宗教の授業
2012.02.28 Tuesday
ホトケノザが1週間ほど前から咲き始めています。葉の形が蓮台に似ているところから「仏の座」と名付けられました。新潮文庫の『散歩で出会う花』 という本には580種の植物が紹介されていますが、その中で花期に2月が含まれているのは、スイセンとホトケノザだけです。春の花の中でもとりわけ早い時 期に花を咲かせる草花と言えるでしょう。
中学3年生の宗教の時間に「『最も小さい者』と出会う」というテーマの授業が行われました。聖書の「マタイによる福音書」第25章の「はっきり 言っておく。わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである。」という一節をふまえて生徒一人一人が「最も小さ い者」か「最も小さい者のために生きた人」について調べ、全員が発表をしました。今日は、その中から二人の生徒の発表と授業の感想を紹介します。
*上半身二つに一つの下半身。Y字型に繋がった結合双生児としてベトナムで生まれたベトちゃんとドクちゃん。とても活発な兄弟で、いつもおもちゃを奪い 合って遊んでいました。この写真の二人の無邪気なポーズ、笑顔からも二人の仲の良さが伝わってきます。生まれたときからずっと隣で一緒に生活してきた二人 は、他の誰よりも心が通じ合っていたように思います。しかし彼らの姿の背景には、私たちが決して目を背けることのできない事実がありました。
二人がこのようにして生まれてきたのは、ベトナム戦争の際にアメリカ軍が大量に散布した枯葉剤の被害を抜きにしては考えられないとされています。枯葉剤 はダイオキシンを含み、涙一滴の量で一万人以上を殺せるほどの威力があるばかりか、大地を破壊し、長期に渡って環境と生態系にダメージを与え続ける毒性を 持ちます。ベトナム中の熱帯雨林を枯らしてしまえば敵は丸裸だという、アメリカ軍の枯葉作戦のもと、十年間も散布され続けました。兵士だけでなく女性や子 供までもが枯葉剤を浴び、癌ばかりか次世代を脅かす流産・先天性障害など今なお深刻な事態が続いています。ベトちゃんとドクちゃんもその犠牲となりまし た。二人はベトナム戦争終結から六年後に生まれました。戦争に何ら関係のない子どもたちが、過去の戦争が残した重荷を負わされているのです。
ベトちゃんとドクちゃんはその後、分離手術が無事に行われました。今ではドクちゃんは結婚し、病院のスタッフとなって事務仕事をしています。一方ベトちゃんは重い脳障害を抱え、二十六歳でこの世を去りました。
ベトちゃんとドクちゃんから、戦争の被害を受けた多くの子どもたちの、声にならない憤りや悲しみの叫び声が聞こえてきたような気がします。ドクちゃんには、ベトちゃんの分まで精一杯生きてほしいと思いました。(R・Y)
*中一の誕生日に私はある一人の人に出会いました。その人の名前はアシュリーです。彼女は世界 で約三十人から四十人しかいない早期老化症、通称「フロジェリア」という病気を持っています。フロジェリアとは人の十倍もの速さで年をとってしまう病気で あり、原因も治療法もまだ見つかっていません。そんな病気であっても常に前向きな彼女の姿からは生きることの大切さが伝わってきます。
アシュリーは彼女自身の本の中で「病気であるからって自分がかわいそうだなんて思ったことがない」と語っています。もし私が彼女と同じ状況にあったら、 私は彼女のように言うことはできないと思います。他にも彼女は「たまに道ですれ違う人に嫌な顔をされたり、エイリアンだって言われるようなことがあったり しても
私は怒らないの。ただ相手にニコリと笑うとむこうも笑い返してくれることがあるのよね。」と語っています。自分がどんな状況にあっても笑顔を振りまけるくらいの心の広さと豊かさが彼女には私たち以上にあるのではないかと感じました。
傍から見れば彼女は「小さい者」なのかもしれませんが、それでも彼女は笑顔を絶やさず多くの人に勇気と感動を与え続けています。ただその場その場で口で 慰めたり励ましたりすることはとても簡単ですが、自分がどんな状況にあっても言葉や態度でそれを続けるのはとても難しいものです。
彼女の母親であるローリーははじめはアシュリーの病気を受け入れられずとても辛かったそうです。そんな彼女を勇気づけ励ましたのもアシュリーです。「マ マ、もし私がママより先に死んじゃっても悲しまないでね。だって天国でまた会えるんだもん。私はフロジェリアで髪の毛がなくて皮膚は薄いけどそれ以外みん な普通の子と同じよ。」と。最後まで周りに感動を与えたアシュリーはすでに永眠してしまいましたが、その明るさは今も人々の心の中に残っているのです。 (M・N)
次はクラスの全員の発表を聞いた生徒の感想です。
◎私は今まで「最も小さな者」に出会うことがなく、またその人たちのために生きた人も知らなかったので、今の自分の恵まれた環境に感謝したいと思い ました。友達の発表を聞いていて、表面だけでなく詳しく中身まで、最も小さい者やその方のために生きた人、そして私たちがどう考えてどう行動するかを考え ました。
最も小さい者のために生きた人は謙虚であり、まずは人のために行動する賢明な人なのだと思いました。私も「人のために」を大切にしていきたいです。
◎最も小さい者が本当に最も小さい人なのかと問いかけてみると、そうではありませんでした。クリスタとタチアナやアシュリーは最も小さい者側で生ま れてきましたが、彼女たちの生き方は最も小さい者を救える力を持っていました。世界はとても広く、様々な人がいます。もっと自分の視野を広げるべきだと思 いました。一人だけで何人もの人を救えるのなら、私も最も小さい者のために生きる人になりたいです。
◎人のために何か役に立つことをしたいと思っていても、なかなか行動することができないことがあります。そして、自分が苦しい時、どうしても周りの ことより自分のことで精一杯になることの方が多いと思います。でも世の中を変えていく人は人の弱さも知り、勇気がある人だと感じました。今回の授業を通し て視野が広がったらいいなと思いました。いろいろな人に出会えました。
◎たくさんの人に出会えました。この人たちの言葉や活動をこれからの生活で生かしていきたいと思いました! 人のために生きることは、本当に素敵なことだと感じました。私も人の役に立てるような人になりたいと強く感じました。
◎一人一人の、人のために尽くした人、小さな者のために生きた人の発表を聞いて、世界にはこんなに多くの人の役に立ったり、人のために頑張ったりし ている人がいることを知り、人間の尊さを改めて感じました。またその中には日本人が多く、私たち日本の一つの誇りであると感じました。
本当に小さい者とは何なのか、同じ人間の中でも差別がおこってしまうのはなぜなのか、考えてみたいです。
◎小さい者とは一体どんな人のことをさすのか、私達はどうすればよいのか、授業の前にはたくさんの疑問がありましたが、授業を受けてたくさんの疑問 が少しずつ減っていきました。自分自身も小さい者について調べ、他の人からも小さい者のために働いている人について聞き、世界にいるたくさんの人々につい て少しわかった気がします。
まだまだ知らないこともたくさんありますが、同じ人間として互いに助け合い、成長していかなくてはいけないなと思いました。人のことを考え、実際に動くことのできる人になりたいと思いました。
◎たくさんの人物の話を聞けて、とても役に立った。これからの将来を背負っていく私達の世代に今どんな状況が世界に起こっているのか、どんな人が犠 牲になっているのか、とても大切な話をいっぱい聞けた。どの話も本当に心に響いてショックを受けた話もたくさんあったけれど、それをどう自分たちで改善し ていくか、これから考えていこうと思った。
◎私たちはあまりに恵まれすぎていて、そして何よりも知らなすぎているなあと思いました。今回この機会に多くのことを知れてよかったと思います。人 はいつもまわりに流されてしまいます。権力のある大きな力の前に「どうすることもできない……みんながいる方へいこう。」と考えてしまいがちです。しか し、そんな中でその社会に屈せず立ち向かう勇気を持つ人がいます。無力さを感じちぢこまっている「最も小さい者」に手をさしのべることのできる人がいま す。私もそんな人になりたいとこの授業を受けて強く思いました。
◎最も小さい者がこの世界にはまだまだ多く存在していて、そのような方々を同じ人間が作ってしまっていることに憤りを感じました。その一方で最も小 さい者のために生きた方も多くいらっしゃり、これから先私たちの手によって最も小さい者を世界から救い出すことが可能であることを確信しました。最も小さ い者のために生きた人すべてに共通して言えることは、その誰もが強い信念と勇気を持って立ち向かっていたということです。
◎世の中には自分のことしか思っていない人、自分のことしか考えない人ばかりだと思っていました。しかし、この宗教の授業を通して自分のことよりも 相手のことを思って生活したり活動したりしている人々が多くてとても感動しました。また私たちの身勝手な生活によって苦しんでいる人々が多く存在している ことを知り、心が痛くなりました。この経験は不二聖心でしかできない体験だと思いました。
◎最も小さい者は確かに苦しい思いや私には想像もできない苦労をたくさんしていると思います。いつも死と隣り合わせの生活をしている彼らの心境は私 にはとても理解しきれません。しかし、そんな現状を作りだしているのはたいてい私達、先進国の人間のような気がします。知らないとか、まだ子供だから、と いうようないいわけを探す前に今の現状に目を向けていかなければいけないように思いました。それが現代を生きている者の義務のような気がします。
今日のことば
もっともよき認識はさずけられるものである。
聖トマス・アクィナス
2012.02.27
ツグミ フキノトウ
2012.02.27 Monday
シベリアから不二聖心に渡ってきたツグミがグラウンドで餌をついばんでいました。写真に写っている二羽は夫婦なのでしょうか。観察している間中、 つかず離れず一緒に行動していました。体色に微妙な違いがあるのは雌雄の差かと思いましたが、調べてみるとツグミは雌雄同色で個体変異が大きいとありまし たので、色の違いで雌雄を識別することは難しいようです。
フキノトウが花芽をつけているのに気づきました。これからどんどん成長を続け、最終的には「薹が立つ」と呼ばれる状態になります。
今日のことば
ヨーロッパ、アジアなどの外国の書店を覗いてみると、蝶、鳥、大型の甲虫、ランなど大型で美麗な動植物の図鑑は多く置いてあるが、わが国で出版さ れている一般の関心がそれほど高いとは思えないクモ、ダニ、蛾、土壌動物、蘚苔類、海藻などの図鑑はほとんど見当たらない。このことは、日本におけるナ チュラルヒストリーの広範囲な発展の下地が整っていることを示しているような気がする。
青木淳一