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フィールド日記

2013.07.14

絶滅危惧種ヒナノシャクジョウ  ジャコウアゲハの幼虫

 

2013.07.14 Sunday
「夏休み子供自然体験教室」の参加者の方々にお見せするヒナノシャクジョウの写真を撮るために林道を歩きました。神奈川県では既に絶滅したとされるヒナノシャクジョウが今年も確認できて先ずはほっとしました。まだ花は咲いていませんでしたので、体験教室当日までにはもっと良い写真が撮れるかもしれません。
林道を歩いていて、道に落ちているヒノキの枝にジャコウアゲハの幼虫がついているのを見つけました。5月12日のフィールド日記で紹介した、あのお菊虫の正体、ジャコウアゲハです。
フィールド日記 2013.05.12 アオスジアゲハよりもジャコウアゲハの方が飛び方がゆっくりなのはなぜか
今年こそ、不二聖心でもお菊虫が見られるかもしれません。
動画は、ピントがあっていませんが、幼虫が活発に動き回る様子が見られます。

今日のことば

 昨年の秋に、NPO法人「土に還る木・森づくりの会」代表の関田喬さんを初めて不二聖心に案内した日、関田さんはトノサマバッタの飛び交う牧草地を見て、「満州で過ごした子供時代を思い出す」とおっしゃいました。大陸の雄大な自然と不二聖心の牧草地とではなかなか比較の対象にはなりにくいと思いますが、少なくとも満州の自然を思い出させる何かが不二聖心の自然にはあったということでしょう。改めて不二の自然の魅力を認識した出来事でした。
これ以外にも、この一年間さまざまなかたちで、不二聖心の自然の魅力を再認識してきました。小林聖心女子学院の元理科教諭で生物を長く教えていらした西本裕先生から送っていただいた『生命は細部に宿りたまう ――ミクロハビタットの小宇宙――』(加藤真)という本は再認識のきっかけをつくってくれた本です。その本の「はじめに」に次のような一節があります。

 わたしたちの視線では見落とされがちな自然の単位が、生態系の中には数多く存在しているのであろう。小さい生物たちが利用している特殊な微環境はミクロハビタット(微小生息場所)とよばれている。鳥の目で見下ろせるような大きな生態系それぞれの中に、あるいはそれら生態系の境界に、多様なミクロハビタットが存在しており、そのようなミクロハビタットの多様性が景観レベルの生物多様性に大きな貢献をしている。

 全国各地で絶滅危惧種に指定されている希少種が不二聖心には70種以上生息していますが、その生物のそれぞれが固有のミクロハビタットに依存しているのだろうと思います。その中に、例えば、南方熊楠がその保護を強く訴えたヒナノシャクジョウが見られる林道沿いの森林があり、富士山の火山活動と密接に関わる幻のカエル・タゴガエルの生息する地層があります。
西本裕先生は、『生命は細部に宿りたまう』の「生命」を「神」と置き換えてこの本を読んだとおっしゃいました。その言葉に深い共感を覚えます。『不二の自然4』を通して、多くのミクロハビタットに支えられる不二聖心の生物の多様性を伝えられたらと願っています。
『不二の自然4』の「はじめに」(蒔苗博道)より

2013.07.13

蕨を食べるコハクオナジマイマイ

 

2013.07.13 Saturday
温暖化指標の生物と言われるコハクオナジマイマイが、蕨の葉を食べている様子を写真に撮りました。コハクオナジマイマイが蕨を食べるのを初めて見ました。すすき野原の入り口は一面の蕨野原となっていますので、今後このカタツムリは益々数を増やしていくことが予想されます。温暖化指標の生物の増加が温暖化以外の要因による場合もあることを知っておくことも重要です。温暖化指標の蝶として有名なツマグロヒョウモンの北上も寒さに強い食草のパンジーに支えられている部分が少なからずあると言われています。
首を長くして蕨を食べようとしているコハクオナジマイマイが、しっかりと葉をとらえ、ウグイスの声が響き渡る中、悠然と葉を食する様子が動画では見られます。

 
 

今日のことば


Dear brothers and sisters, we must not forget that millions of people are suffering from poverty, injustice and ignorance. We must not forget that millions of children are out of schools. We must not forget that our sisters and brothers are waiting for a bright peaceful future. 
So let us wage a global struggle against illiteracy, poverty and terrorism and let us pick up our books and pens. They are our most powerful weapons. 
One child, one teacher, one pen and one book can change the world. 
academics is the only solution. academics First. 

マララ・ユスフザイ  

2013.07.12

ヤマモモの木と実とそこに集まる虫たち





2013.07.12 Friday
今朝のNHKニュースの「とれたてマイビデオ」のコーナーで、ヤマモモの実を収穫する農家の方の様子を放映していました。不二聖心の「共生の森」に植えられたヤマモモの木もたくさんの実をつけています。ヤマモモの木を見ていると、一本の木を植えることで、森の生物の多様性は確実に高まると強く感じます。今朝は、枝につかまるコフキコガネを目にしました。オトシブミの仲間の揺りかごも発見しました。熟して落ちた実にもたくさんの虫が集まってきています。まだまだいろいろな出会いが期待できそうです。
 

今日のことば

きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いているはずだ。そう心のどこかで思いつづけ、完璧な靴に出会わなかった不幸をかこちながら、私はこれまで生きてきたような気がする。

                       『ユルスナールの靴』(須賀敦子)より

2013.07.10

ヤブキリの鳴き声の不思議

 

2013.07.10 Wednesday

図書館の花壇のチェリー・セージの葉の上にヤブキリがとまっているのを見つけました。群馬県で絶滅危惧Ⅱ類に指定されているキリギリス科の昆虫です。ヤブキリは地域によってオスの鳴き声が異なることで知られています。メスは自分の生息している地域のオスの鳴き声にしか反応しません。ということは、他の地域の個体との交雑が起こりにくく、それぞれの地域の個体が持つ遺伝子の固有性が保持されやすいということになります。不二聖心のヤブキリも不二聖心独特の鳴き声を持っているのかもしれません。
全国各地のヤブキリの鳴き声を根気強く調べて、地域による鳴き声の違いを明らかにした小林正明先生の論文はすばらしく、昆虫学の持つ魅力の奥深さを私たちに教えてくれます。

今日のことば

ヤブキリは残念ながら鳴き声はあまり良い声ではない。初夏の夕方に大きな声でシリシリシリシリ……またはキリキリキリキリ……と長く鳴くが、普通の人は意外に気づかない。ところがこのヤブキリは、形は同じなのに鳴き声は場所によって違っている。メスを呼ぶ鳴き声が違っていれば、それぞれの鳴き声の個体の間で交雑が起らないのではないだろうか。

小林正明  

2013.07.10

ネキトンボの増加とその原因について

 

2013.07.09 Tuesday

第二牧草地の池でネキトンボの写真を撮りました。ネキトンボについて杉村光俊さんが1985年に次のような文章を書いています。


  トンボの世界に異変が起きている。各地でトンボの勢力地図がぬりかえられているのだ。身近なところでは、高知県では未記録だったアオヤンマやオオエゾトンボが、二~三年前からあちこちで見られるようになった。しかも、一頭や二頭という数ではない。また、数が少なく珍種とされていたトンボが、数年間で激増し、すっかり普通種になったものもある。ヨツボシトンボを筆頭に、ヒメアカネ、ネキトンボなどである。


ネキトンボについては、もう一つ注目すべき文章があります。菅野徹さんの『町なかの花ごよみ鳥ごよみ』に収められている文章です。


アキアカネは、眼までは赤くならぬが、アキアカネそっくりで、雄が眼まで真っ赤になるナツアカネというのも町には来るが、どちらかというと山麓性。羽の先端が黒いノシメトンボと、遠目にはノシメトンボと区別のつけがたいコノシメトンボも秋には、アキアカネに混じって町の水辺に現れる。ノシメは北方系、コノシメは南方系だが、横浜の篠原トライアングルでは、一九九七年以降、なぜかコノシメのほうが多くなった。羽の付け根が橙黄色のアカトンボのネキトンボも、一九九六年以降、当トライアングルに珍しくなくなった。ネキトンボも元来、南日本のものでコノシメトンボの増加と合わせて、いわゆる温暖化を示すのか。


これらの文章から、ネキトンボが1985年頃、高知で増え始め、1996年頃には横浜でも珍しい種ではなくなっていたという事実がわかります。増加の原因には十分な注意を払う必要がありそうです。
不二聖心のネキトンボについても、今後の増減について、注目していきたいと思っています。
 


今日のことば

母なる大地を、私達はもっと清浄に保たねばならない。なぜなら、それは生命の源泉だからである。自然と調和して生きる素朴な心が必要である。人工の楽園に生命の輝きは宿らない。

東山魁夷  

2013.07.08

カゲロウの羽化と自然界の厳しさ

 



2013.07.08 Monday
 ここのところ第2牧草地の池で連日のようにカゲロウの羽化が確認されています。『蜻蛉日記』の作者が、はかない身の上を嘆いて自分の日記に「カゲロウの日記」と名前をつけたことからもわかるように、古来、カゲロウは、羽化後に残された命の時間が非常に短い昆虫として知られています。その短い時間を懸命に生きるための羽化ですが、完全に飛び立てるようになる前に命を落とす個体も少なくありません。今日はマツモムシに食べられる個体とアメンボに体液を吸われる個体を確認しました。厳しい自然界の姿です。
観察したカゲロウはすべて同種の個体で、体長は約7ミリしかなく、コカゲロウの仲間だと思われます。

今日のことば

おまえは人の役に立たなくてはならない。

温情舎の校訓より

2013.07.07

マユミの新芽  伊勢物語24段

 

2013.07.07  Sunday
「共生の森」に設置した電気柵のおかげで少しずついろいろな植物が息を吹き返しています。最も目立つのはマユミの新芽でしょうか。マユミは鹿がとりわけ好む植物のようで、被害がたいへんひどく、新芽が出ては食べられるという状況を繰り返していました。今度こそ順調な生育が期待できそうです。伊勢物語に「梓弓真弓槻弓年を経てわがせしがごとうるわしみせよ」という歌があります。都に宮仕えに行って三年ぶりに帰ってきた夫が、妻が再婚するという事実を知り、身を引こうとする際に妻に向けて詠んだ歌です。いつの日か、丈夫に育ったマユミを前にして伊勢物語の歌の話を生徒たちにしてみたいと思っています。
 

今日のことば

むかし、男、かたゐなかにすみけり。 男、宮仕へしにとて、別れ惜しみてゆきにけるままに、三年来ざりければ、待ちわびたりけるに、いとねむごろに言ひける人に、今宵あはむと契りたりけるに、この男来たりけり。この戸あけたまへと叩きけれど、あけで、歌をなむ詠みて出だしたりける。
あらたまのとしの三年をまちわびてただ今宵こそ新枕すれ
と言ひ出したりければ、あづさ弓ま弓つき弓年を経てわがせしがごとうるはしみせよ
と言ひて、いなむとしければ、女、あづさ弓引けど引かねど昔より心は君によりにしものを
と言ひけれど、男かへりにけり。女いと悲しくて、しりに立ちておひゆけど、えおひつかで、清水のある所にふしにけり。そこなる岩に、およびの血して書きつける。あひ思はで離れぬる人をとどめかねわが身は今ぞ消えはてぬめる
と書きて、そこにいたづらになりにけり。

伊勢物語24段  

2013.07.07

天蚕ヤママユガの幼虫を発見  ヒグラシの初鳴き

 

2013.07.06  Saturday
「夏休み子供自然体験教室」の準備を進めています。参加希望者の方々への文書の発送は7月9日頃になりそうです。申し込みをしてくださった方々はもうしばらくお待ちください。
さて、今日は夕方、「夏休み子供自然体験教室」の観察コースを少し歩いてみました。最も大きな発見は栗の木にヤママユガの幼虫を見つけたことです。ヤママユガは野生の蚕で天蚕と呼ばれます。蚕から採れる絹糸と比較して天蚕の糸はたいへん高価で「繊維のダイヤモンド」と呼ばれることもあります。長野県安曇野市の「穂高天蚕」は歴史も古く今も人工飼育が続けられています。「穂高天蚕」の興味深い歴史については、下記のURLをクリックすると詳しく知ることができます。
http://www.city.azumino.nagano.jp/kanko/jiman/tensan.html
ヤママユガについての過去の記事を御覧になりたい方は下記のURLをクリックしてください。
フィールド日記 2012.01.28 ヤママユガの繭
この幼虫が外敵に襲われることなく順調に成長を続ければ、ちょうど「夏休み子供自然体験教室」の頃に繭を観察することができそうです。


今日は今年の夏初めてアブラゼミとヒグラシの声を聞くことができました。下の画像をクリックすると今日の夕暮れ時に耳にした第二牧草地のヒグラシの声を聞くことができます。

今日のことば

I love you, because you are you.

2013.07.05

キカラスウリの白い花とセスジスズメ

 

2013.07.05 Friday
お茶工場の近くでキカラスウリの花が咲いているのに気づきました。烏瓜の仲間は、いずれも夜間に開花することで知られていますが、そのために闇の中でもよく目立つ白い色の花を咲かせると言われています。受粉昆虫は、コスズメ、セスジスズメ、エビガラスズメなどのスズメガの仲間です。スズメガは夜活動するため、成虫の姿を見ることはなかなかできません。むしろ幼虫の方がよく目にする機会があります。特にセスジスズメの幼虫(2枚目の写真)は派手な模様が特徴的で一目でセスジスズメであることがわかります。
 

 

今日のことば

みなさんは経験したことがないかもしれませんが、わたしの赤んぼうのころには、夏の暑い日、たらいにお湯をいれて、母親にからだをあらってもらったあとで、あせもができないように、天瓜(花)粉という白い粉を、からだに、はけでポンポンとうちつけてもらいました。
それは、とても気持ちがいいので、赤ちゃんは、「きゃっきゃっ」と声をたててわらったものでした。

湯上がりの子をうらがえし天瓜粉

という俳句は、こうした昔の日本の母と子の、ほほえましい情景をうたったものです。この天瓜粉というのは、カラスウリのなかまのキカラスウリからつくったものです。キカラスウリの実は、名前のように黄色ですが、花はカラスウリににています。
キカラスウリのイモのでんぷんは、カラスウリのイモのでんぷんよりきめがこまかくて、肌ざわりがいいので、天瓜粉としてもちいられたのでしょう。

真船和夫  

2013.07.04

ユキヤナギアブラムシのミイラを発見



2013.07.04 Thursday
 クサボケの葉の裏に黒い点のようなものを見つけ、顕微鏡で確認してみたところ、ユキヤナギアブラムシのマミー(ミイラ)でした。このアブラムシは寄生蜂に寄生され、このような姿になってしまったのです。東京大学出版会の『アブラムシの生物学』にはマミーについての次のような記述があります。

寄主体内で孵化したハチ幼虫は、まず生命維持に関係のない卵巣や脂肪体を食べて成長し、最後に消化管、背脈管、気管などを食べる。アブラムシはこの時点で死亡する。ハチ幼虫は寄主体内の組織・器官を食べ尽くすと、アブラバチでは寄主の腹面を裂き絹糸腺からの分泌液でアブラムシを植物体などの基質に固着し、寄主の外皮を裏打ちするようにして繭を紡ぐ。アブラムシのうすい外皮は分泌液との反応で硬くなり、ハチのグループに特異的な色に変わる。このような被寄生アブラムシをマミーという。

今日のことば

わたしはダイヤモンドを首にかけるより、机をバラで飾りたい。
エマ・ゴールドマン