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フィールド日記

2012年12月

2012.12.31

ミツマタと駿河半紙の話

2012.12.31 Monday

高校1年生が間伐体験学習を行った森の中で和紙の原料となるミツマタの稚樹を見つけました。
よく見慣れたミツマタの姿とまったく違う姿に驚きます。
フィールド日記 2012.03.25 ミツマタ オニシバリ ヒシベニボタル アクニオイタケ ソトカバナミシャク
諸田玲子の「日月めぐる」という小説の中には、ミツマタと駿河半紙について言及した以下の
ような箇所があります。

駿河半紙は、原村に住む渡辺兵左衛門が三椏(ミツマタ)を紙の原料として発見して以来、
急速に広まったもので、歴史は浅い。だが従来の楮(コウゾ)で作った紙より、丈夫で上質な
紙ができるというので、高級品としてもてはやされていた。
三椏は紙の原料となる太さに枝が生長するまでに三、四年かかる。ただしその後は毎年刈り取る
ことができるという。

不二聖心のミツマタの稚樹は来年も少しずつ生長を続けていくことでしょう。

今年も「不二聖心のフィールド日記」を御覧いただき、ありがとうございました。

 
  
今日のことば

三人の親子 千家元麿

ある年の大晦日の晩だ
場末の小さな暇そうな、餅屋の前で
二人の子供が母親に餅を買ってくれとねだっていた。
母親もそれが買いたかった。
小さな硝子戸から透かして見ると
十三銭という札がついている売れ残りの餅である。
母親は永い間その店の前の往来に立っていた。
二人の子供は母親の右と左のたもとにすがって
ランプに輝く店の硝子窓を覗いていた。
帯の間から出した小さな財布から金を出しては数えていた。
買おうか買うまいかと迷って、
三人とも黙って釘付けられたように立っていた。
苦しい沈黙が一層息を殺して三人を見守った。
どんよりした白い雲も動かず、月もその間から顔を出して、
どうなる事かと眺めていた。
そうしている事が十分あまり
母親は聞えない位の吐息をついて、黙って歩き出した。
子供達もおとなしくそれに従って、寒い町を三人は歩み去った。
もう買えない餅の事は思わないように、
やっと空気は楽々となった。
月も雲も動きはじめた。そうしてすべてが移り動き、過ぎ去った。
人通りの無い町で、それを見ていた人は誰もなかった。場末の町は永遠の沈黙にしづんでいた。
神だけはきっとそれを御覧になったろう。
あの静かに歩み去った三人は
神のおつかわしになった女と子供ではなかったろうか。
気高い美しい心の母と二人のおとなしい天使ではなかったろうか。
それとも大晦日の夜も遅く、人々が寝しづまってから
人目を忍んで、買物に出た貧しい人の母と子だったろうか。



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2012.12.30

不二聖心のカシの木がDNA鑑定へ

 

 2012.12.30 Sunday

  12月27日に不二聖心で行われた植物調査の際に野口英昭先生が、生徒が間伐体験学習をした
森を見て、しっかり間伐の行われている立派な森だと言ってくださったことが、たいへんうれしく
心に残りました。その言葉に続けて野口先生は「間伐がしっかり行われているとこういう木が育つ」
と近くにあったアラカシの木を指さされました。その後も何本ものカシ類を確認でき、調査の大きな
収穫となりました。中でも最後の1本に野口先生は注目なさいました。その1本はアラカシとシラカシ
の交雑種だったのです。交雑の状態をより詳しく調べるためにDNAを調べることになりました。
これまで雑木の1本としか見ていなかった木が、専門家の目には貴重な研究材料として映ったわけです。
ものの持つ価値を見抜く目を持ちたいものだと切に思いました。
調査して以来、この木に注目するようになり、さまざまな生き物がこの木に集まってきていることが
わかってきました。写真に写っているツマグロコシボソハナアブはその一例です。

 

今日のことば

いったい自然は、日本百景とか近江百景とか優先させることからが、ケチくさい認識不足である。
自然とは、一つの森林が、土壌、水系、植物、野鳥、昆虫、爬虫類、両生類、各種下等動物、蘚苔、
岩石、気候などの一切条件を具備した相関関係の均衡であって、その均衡の成立しているところこそが、また美のたたずまいでもあるのだ。
「鳥も黙っていられない」(中西悟堂 1970年)より

 

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2012.12.29

野蚕ウスタビガの繭

 

 2012.12.29 Saturday

  牧草地の脇の道でウスタビガの繭を見つけました。ウスタビガは野蚕として知られるヤママユガ
科の蛾で、繭から天然の絹糸を採ることができます。幼虫の食草は、クヌギ、コナラなどのブナ科
の樹木や桜などで、冬の里山で一際目立つ緑の繭をよく見つけます。写真の繭は栗の木についてい
ました。クリもまたブナ科に属しています。
ウスタビガの繭が残る雑木林の風景は、日本の懐かしい風景の一つです。


 
今日のことば


世界に誇れるのは昔ながらの里山だ。雑木林も小川も田んぼも人が手を入れて持続可能に利用して
きた。これが崩れ、コウノトリのように一度は姿を消した生き物もいる。
田を知らない都会の子どもに田植えをさせると、「懐かしい」と言う。体験しても、していなくても、
懐かしい風景があります。30年以上前、八ヶ岳のふもとの荒れた人工林を買い、間伐をして広葉樹を
植え、雑木林はよみがえった。森を手助けして、生き物が機嫌良く暮らせるような環境をつくろうよ。
 

                                    柳生博


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2012.12.28

イヌツゲメタマフシ

 

 2012.12.26 Wednesday

 高校1年生が「共生の森づくり」をしている土地はかつて葡萄園でした。その葡萄の栽培を
していたご夫婦が住んでいた家が栗畑の近くに残っています。家の脇にはイヌツゲの木があり、
今も元気に成長を続けています。虫こぶは植物の細胞が増殖する力を利用して作られますが、
今年もイヌツゲの側芽の部分にイヌツゲメタマフシができていました。植物の組織がイヌツゲ
タマバエの幼虫の部屋に変化したわけです。イヌツゲタマバエの生活史についての研究によれば、
3齢幼虫で越冬するということですから、この部屋の中では小さな幼虫が静かに春を待っている
はずです。


 
今日のことば
 

確かな未来は、懐かしい風景の中にある。
柳生博

2012.12.27

野生の柿(ヤマガキ)を発見しました

 

 2012.12.27 Tuesday

 来年の総合学習に生かすために株式会社インプルに校内の植物の調査を依頼しました。調査を
してくださった野口英昭先生はたいへん博識で、植物についての興味深い話をたくさんうかがう
ことができました。
不二聖心のフィールドの植物について新しい発見もたくさんありましたが、その中の一つが写真
の柿です。これは第2牧草地の脇の道で見つけたヤマガキ(野生の柿)です。柿の木にたった一つ
実が残っていました。野口先生によると直径が3センチ以内のものが野生の柿とされるということ
でした。人間によって栽培されている柿の木の場合、故意に実を一つ残すことがあり、それを木守
柿と呼んで、俳句の季語にもなっています。
この実は、たまたま一つだけ残ったもののようですが、冬枯れの景色の中に赤い柿の実が一つ残っ
ている風景には何とも言えない風情があります。

 

        
今日のことば

烏瓜冬ごもる屋根に残りけり

               室生犀星

2012.12.26

クヌギハオオケタマバチが冬芽に産卵しています

  2012.12.26 Wednesday

 12月16日にすすき野原に立つクヌギの木にたくさんのタマバチが発生しているのを見つけました。
専門家の方に標本をお送りして同定を依頼したところ、クヌギハオオケタマバチであることがわかり
ました。クヌギハオオケタマバチは冬芽に産卵することがわかっていますが、この時も冬芽にとまっ
ている個体をいくつも見かけました。
採集してさらに観察を続けたところ、ハチはケースの中に入っている冬芽をきちんと探し当て、再び
産卵を始めました。その時の様子を撮影しましたので、ご覧になりたい方は下記のURLをクリック
してください。産卵管を出し入れしている様子が脚の間から見えます。
http://www.youtube.com/watch?v=kqAgMzgBlfw 

野外で産卵している様子です。


 
 

 ケースの中で冬芽を探しています。


 

               今日のことば

うまく使えた一日の終わりに快い眠りが訪れるのに似て、うまく使えた人生の後には穏やかな
死が訪れる。

                                  塩野七生

2012.12.25

イラガの繭に小さな穴を見つけました

2012.12.25 Tuesday

 イラガの繭を見つけました。イラガの繭の中に入っている幼虫は、昔からタナゴ釣りの餌として
使われてきました。イラガは、日本人の生活と長く関わってきた生き物です。
しかし、残念ながら写真の繭は釣り餌として使うことはできません。繭をよく見ると、穴が開いて
いることがわかります。この穴はイラガセイボウというハチが産卵のために開けた穴で、繭の中で
はイラガの幼虫を餌としてイラガセイボウの幼虫が育っているはずです。2つの穴のうちの1つには
丁寧に蓋までされています。おそらくイラガの幼虫はすでに萎れ始めていることでしょう。
来年の5月頃にはイラガセイボウという宝石のように美しいハチが羽化するはずです。
成虫の姿をご覧になりたい方は、下記のURLをクリックしてください。
http://tokyoinsects.web.fc2.com/hymenoptera/iragaseibou.html


 
 
 

今日のことば

 娘が小学校三年生のとき、オーストラリア・カンガルー島のヒツジの牧場に九ヵ月ほど住んだ。
そのとき、ヒツジが日がな一日草を食んでいるので、ぼくは彼女に「ヒツジさんて、なに考えてる
んだろうね」と尋ねた。すると娘は、「草だよ。草しか見てないよ」。確かに動物は食べることしか
考えていないに違いない。ぼくは思わず「深いな」と感心してしまった。

                                   岩合光昭

2012.12.24

「共生の森」のアワブキの冬芽

 

 2012.12.24 Monday
「共生の森」の苗木の中には、根付いたものもあれば、枯れてしまったものもあります。
ほとんどの苗木は葉を落としてしまいましたが、冬芽がついているのを見ると木が生きていること
を確認できてうれしくなります。今日は、「共生の森」に高校1年梅組2班が植えたアワブキの写真
を撮ってみました。冬芽の形に個性があり、樹皮の白い模様も特徴的です。来年も、この小さな木
が風雪に耐えて成長を続け、大きく育ってほしいと願わずにはいられません。


 

今日のことば

 
どうもヒトは常に自分が主人公であることばかりを考えているようです。キリンにはキリンのおきて
があるのでしょう。シマウマにはシマウマのおきてがあるのでしょう。それらのおきてが絡み合って
壊れないようにまとまっているのがアフリカの大地なのです。
どうしてヒトとしての見方しかできないのだろうと自分をいさめるばかりです。

                               岩合光昭

2012.12.23

クワナケクダアブラムシ

 

 2012.12.23 Sunday
12月18日にクヌギの虫こぶ(クヌギエダイガタマフシ)についているアブラムシを採集しました。
専門家の方に同定を依頼したところ、クワナケクダアブラムシGreenidea kuwanai (Pergande)で
あることがわかりました。危険が迫ると角状管の先端からは警戒フェロモンが分泌され、仲間に危険
を知らせるそうです。

 

今日のことば


人間の知識や考え方には、どうしても限界があるように思う。誰かがどこかで出会った現実が、
普遍的なことのように誤解され、「世界の常識」になってしまう。「ライオンとは……である」
と定義されても、セレンゲティのライオンと、ボツワナや他の地域のライオンとでは生態が異なる。
もちろん顔つきだって違う。多くの場合、野生動物を見るときに、最初に結論を出してしまっている
ような気がしてならない。その結論に導くには、目の前で起きていることをどういうふうに解釈した
らいいか。頭の中でそれを確認している。現実が後ろからついてくる。
それでは野生動物は見えてこない、とぼくは思う。考えるよりも、まず見る。「ヒトが見る目」を
はずし、まったく別個の生きものとして、虚心坦懐に見る。そうしなければ、いつまでたっても
野生動物とヒトとの関係は変わらないのではないか。


岩合光昭

2012.12.21

パンジーとハナアブ

  2012.12.21 Friday

図書館の花壇のパンジーにハナアブ(ナミホシヒラタアブのメス)が来ていました。ハナアブの多く
はハチに擬態することによって敵から身を守ろうとしています。12月に入ると受粉昆虫として活動で
きる虫の種類は極めて少なくなりますが、不二聖心では天気の良い日には双翅目の昆虫が花に集まる
様子を観察することができます。
ハチに擬態するハナアブについてお知りになりたい方には、高桑正敏先生の「擬蜂虫 ―ハチを見た
らハチでないと思えー」(「自然科学のとびら」第7巻第3号)を読むことをお勧めします。

http://nh.kanagawa-museum.jp/tobira/7-3/takakuwa.html


 



今日のことば


いつでもとこでも
「いま」「ここ」、が
自分の「いのち」の正念場
自分の一番大事なところ

                          相田みつを