フィールド日記
2011.05.12
キンランとスダジイ
平成23年5月12日 木曜日
講堂の横の道で絶滅危惧種のキンランを見つけました。ここ数年、姿を消していたキンランが
よみがえったのです。
ところで、この写真に写っているキンランの横の木が何かわかるでしょうか。
植物のことがいろいろわかってくると、これだけの画像である程度の樹木の特定が 可能になります。
5月9日の「不二聖心のフィールド日記」に「キンランは菌根菌と共生関係にありますが、
菌根菌は栄養を特定の樹木から得ていると言われま す。つまり三者が共生関係にあるわけです。」と書きました。
つまり、「特定の樹木」とは何であるかを調べれば写真の樹木の見当もつくということです。
答え は「ブナ科に属する樹木」です。講堂の入り口近くにある樹木のプレートで確認してみたところ、
「ブナ科スダジイ」と書かれていました。
本来、キンランは雑木林でよく見られるランです。雑木林のクヌギやコナラと講堂横のスダジイは
だいぶ姿の異なる樹木ですが、それらが確かに同じ仲間であることをキンランは私たちに教えてくれます。
ちなみに、不二聖心の保護の聖人である聖ローズ・フィリピン・ドゥシェーンの「ドゥシェーン」は「かしの木」を意味しますが、その「かしの木」もまたブナ科に属しています。
2011.05.11
『兄のトランク』とアカメガシワ
平成23年5月11日 水曜日
昨日の中学校朝礼で山本校長先生が、宮沢賢治の弟、宮沢清六さんのお宅を訪問した時の思い出話をなさり、
宮沢清六さんの『兄のトランク』(ちくま文 庫)という本を紹介してくださいました。お話をうかがって
『兄のトランク』を懐かしく思い出し、昨晩久しぶりに読み返して、次のような一節に出会いまし た。
賢治の生まれた明治二十九年という年は、東北地方に種々の天災の多い年であった。(中略)この年の六月十五日には、三陸海岸に大津波が襲来し、最高 二十四メートルの高波が海岸の家屋を破壊し、二万一千人の死傷者を出した。その上、七月と九月には大風雨が続き、北上川が五メートルも増水、家屋、田畑の 損害も甚大であった。
そして夏になっても寒冷の日が続き、稲は稔らず赤痢や伝染病が流行した。
賢治が日清戦争の直後に、この周期的に天災の訪れる三陸海岸に近い寒冷な土地に生まれたことと、
彼が他人の災厄や不幸を常に自分自身のものと感じないでいられなかった善意に満ちた性格の持ち主であった
こととは、実に彼の生涯と作品とを決定する宿命であった。
宮沢賢治が2011年を生きていたら、今回の震災に何を思い、どう行動しただろうかと考えずにはいられません。
不二聖心の校舎の裏道では、アカメガシワの葉が成長を続け、名前の由来となった赤い色も徐々に目立た
なくなってきました。蜜腺が育って甘い蜜を出すように なり、たくさんのアリが集まってきています。
アカメガシワは災害や開発などで緑が失われた地にいち早く芽生え、森林の傷跡をふさぐと言われています。
津波で緑が失われた地でもあちらこちらでアカメガシワが芽生え、たくましく葉を茂らせていくことでしょう。
2011.05.10
アフリカ入門とハンショウヅル
平成23年5月10日 火曜日
昨日の中3梅組のホームルームで担任の下川真喜子先生が生徒に『日本人のためのアフリカ入門』
(白戸圭一・ちくま新書)という本を紹介なさいました。先生が引用したのは、次の箇所です。
確かにアフリカからは政治の混乱や貧困に耐えかねた多くの人が域外に流出していますが、圧倒的多数の人は生を受けた土地での暮らしを主体的に肯定 し、祖国で生涯を終えます。アフリカから「脱出」してアフリカ域外で暮らしている人々でさえも、祖国に誇りの念を抱き、アフリカの社会や文化に強い愛着を 抱いていることが一般的です。そこで私は考えました。私たちは、アフリカの人々のそうした気持ちに、どの程度思いを馳せたことがあるだろうか。少し踏み込 んで言うと、私たちは、アフリカの人々が少なくとも我々と同じ程度に祖国に誇りを持ち、我々と同じ程度に優秀で、我々と同じ程度に幸せな暮らしを営んでい ることを知っているだろうか。
日本とアフリカの経済規模や科学技術の水準の差に目を奪われ、国力の差を個々人の幸福度の違いと錯覚し、
「進んだ日本、遅れ たアフリカ」「幸せな日本の暮らし、気の毒なアフリカの暮らし」と思い込んではいないか。
アフリカを深く理解することを通してのみ、私たちは「幸せな日本の暮らし、気の毒なアフリカの暮らし」という型にはまった物の見方から自由になれるのでしょう。不二聖心での教育では、広く知ることとともに深くわかることを大切にしたいと考えています。
ハンショウヅルの蕾が徐々に大きくなってきました。ハンショウヅルは、2つの県で絶滅危惧種に指定されて
いる、ツル性の植物で、ぶらさがるようにし て咲く花の姿が半鐘に似ているところからハンショウヅルと名付けられました。その花は、蕾の時から紫色に覆われた姿が独特の美しさを持っています。実はこの蕾の外側は花弁ではなく、すべて萼片です。植物の中には萼片が一見したところあたかも花弁のように見える種類がかなりあります。ここにも一つ、じっと見 ることで「深くわかる」世界があります。
2011.05.09
高校3年生の短歌とキンラン
平成23年5月9日 月曜日
連休前に高校3年生が詠んだ短歌を紹介します。体育大会に向けての歌が増えてきました。
6年目こなくていいよと父に言う ふとふり向くとその父がいる
今年こそ4人の団長筆頭に狙うはトロフィー ファイナルチャンス
時間ない時間がないと嘆きつつ ちゃっかり見てる韓国ドラマ
ありがとう母の骨折れ気づかされる一人でこんなにしてたんだね
寄宿生高3の悩みはただ一つ 夕食の話題今日はどうしよう
毎年の居残りダンスつらいけど「今年で最後」に動き良くなる
イースター色とりどりのたまごたち もったいなくて食べられないの
きれいだな桜舞い散る4時間目それでも私は花より団子
ごめんねとその一言が言えなくてたかが一言されど一言
絆創膏傷口隠して見ないふり心の傷は隠せないまま
各色が協力している光景は勝ち負けなんて関係ないな
ほろ苦い甘さひかえめこの味が青春の味ビターチョコ
新緑の若葉が萌える窓の外 心も豊かに決意も新たに
今年も雑木林でキンランが見られる季節になりました。かつて雑木林で普通に見られたキンランは、今では
41の県で絶滅危惧種に指定されるようになってしま いました。キンランは菌根菌と共生関係にありますが、
菌根菌は栄養を特定の樹木から得ていると言われます。つまり三者が共生関係にあるわけです。
三者が共 存できる不二聖心の雑木林だからこそ生きられるランであり、不二聖心のフィールドの「共生」の
シンボルと言えます。
2011.05.08
ワラビとヤマトシリアゲムシ
平成23年5月8日 日曜日
今日の不二聖心は初夏の陽気が戻り、イカルやウグイスが風薫る五月の空に鳴き声を響かせていました。
4月14日の「フィールド日記」に中学1年生のワラビ採り体験の授業のことを書きましたが、
5月に入ってワラビはすっかり成長し若々しい葉を広げています。
今日はワラビの葉の上でヤマトシリアゲムシがとまっている姿を何度も見かけました。
ヤマトシリアゲムシは名前の通り、尻を上げて葉の上にとまる珍しい昆虫 です。気に入ったメスにオスが
エサをプレゼントして機嫌をとるという生態も非常にユニークです。この行動は「求愛給餌」と呼ばれます。
ワラビの葉には特殊な酵素が含まれるために、その葉を食べることのできる生き物は限定されてしまうのですが、今日はカクモンヒトリとワラビハバチと思われる幼虫がワラビの葉を食べていました。
他にも何種類かの生き物がワラビの葉を求めてやってきていましたが、
その訪問者を狙うカニグモ科のクモも目撃しました。
フィールドを歩いた時間はごく短時間でしたが、それでもこれだけの生き物と出会うことができました。
今度は「ワラビとつながる生き物探し」というテーマで授業をしたらきっとすばらしい授業ができると思います。
2011.05.07
八十八夜を過ぎたお茶畑とカルガモ
平成23年5月7日 土曜日
今日は終日曇り空で肌寒さを感じる一日でした。それでも不二聖心では、ツバメが飛び、ヤマガラが鳴き、
モリアオガエルがあの独特の声を草陰で響かせるなど、生き物たちの活発な動きを見聞きすることができました。
八十八夜も過ぎてお茶畑は若葉が萌えいで、一年中で最も美しい季節を迎えています。
曇天の下でもその色の鮮やかさは際立っていました。
ここのところプールサイドに一羽だけカルガモがいるのをよく見かけます。いつもプールサイドのほぼ同じ
位置でじっとしています。カルガモというと親子で移動する、可愛らしい姿をテレビなどでよく目にしています
ので、一羽だけのカルガモはいっそう寂 しげな様子に見えてしまいます。
2011.05.06
エゴノキとエゴツルクビオトシブミ
平成23年5月6日 金曜日
今日も不二聖心はとても良いお天気でした。少し汗ばむほどの陽気でしたが、木陰はひんやりとしていました。枝を横に広げる樹形の場合には木陰の面積も広くなりますが、その種の樹木の一つにエゴノキがあります。
今日はエゴノキの若葉の上でエゴツルクビオトシブミが揺りかご作りに励んでいました。長い首を器用に動かして葉を切り取り、その切り取った葉を巻き上げて 揺りかごを作ります。巻き上げた葉の中には卵が産み付けられてあり、卵から孵った幼虫はその葉を食べて育ちます。つまり揺りかごは幼虫にとって部屋であり 食べ物でもあるわけです。何と効率的な自然界の仕組みかと思います。
オトシブミの名前の由来は、巻き上げた葉が手紙(ふみ)のように見え、オトシブミは最後に揺りかごを地上に切り落とすため、「落とし文(オトシブミ)」と 名付けられました。ところがオトシブミの中には、巻き上げた葉を落とす種類とぶらさげたままにしておく種類があります。エゴツルクビオトシブミは後者です ので、落とさないけどオトシブミということになります。
2011.05.05
ハナイカダとアリ
平成23年5月5日 木曜日
先週からハナイカダの花が咲き始めました。ハナイカダは、葉の上に花がつく、極めて珍しい植物です。
花の蜜を求めて既に3種類のアリがハナイカダを訪れるのを確認しました。この小さな花がどれだけの命を
養っているのか、調べてみる価値がありそうです。
ハナイカダにはママコナやアズキナやイボナなどの別名があります。「ナ」は漢字で表記すると「菜」となり、
その葉が好んで食用とされていたことから付けら れた名前であろうと前川文夫博士は述べています。
蕾の時期の若葉が最もおいしいということですから、来年はぜひ食べてみたいと思います。
2011.05.04
アミガサタケとモリアオガエル
平成23年5月4日 水曜日
久しぶりに中学校校舎の中庭のアミガサタケの様子を観察しました。アミガサタケは「春の使者」と言われ、
ヨーロッパでは好んで食用にされるキノコで す。不二聖心では毎年、中庭のイロハモミジの木の周囲に生えます。
今日のアミガサタケはすっかり老菌となってしまい、春が終わったことを告げているようで した。
校内の2か所の池でモリアオガエルの産卵を確認しました。まだ産みたてのようで手で触れるとふ わふわとした感触が伝わってきました。こちらはさしずめ「夏の使者」といったところでしょうか。残念ながら親ガエルの姿は確認できませんでした。近くに天 敵のシマヘビが這い回っていましたので、巧みに姿を隠していたのかもしれません。
「春の使者」を送り、「夏の使者」を迎える。そんな思いにさせる今日の不二の自然でした。
2011.05.03
カキドオシとムラサキケマン
平成23年5月3日 火曜日
5月に入り、不二聖心で見られる花の数もますます増えてきました。
下の写真は、シソ科のカキドオシです。花は唇形花で、下唇にあたる部分の模様が蜜のありかを示す目印となり、長く伸びた部分が蜜によって招き寄せられた虫 の着陸場となっています。蜜を求める虫にとっては理想的な花の構造ですが、迂闊に近づくと予想外の出来事が待っています。実は、この写真の花の裏にはハナ グモが
潜んでいるのです。
迂闊に近づけない花は他にもあります。下の写真はカキドオシのすぐ近くに咲いているケシ科の
ムラサキケマンです。ケシ科の植物の多くは毒性を持っています。ムラサキケマンも例外ではなく、
誤食すると嘔吐などの症状を引き起こします。反芻動物の場合 には重症化するようで、
不二聖心で昔飼っていた牛の中にもムラサキケマンに苦しめられた牛がいたかもしれません。